「ATOMIC HEART」レビュー&ウォークスルーインデックス

「ATOMIC HEART」は、パラレルワールドにおける1955年のソビエト連邦を舞台にしたRPG要素を持つファーストパーソンシューターです。
1948年、ソ連のロボット工学は職場で人間の労働者にとって代わることに成功し、徐々にソビエト市民の生活に欠かせない存在になっていきます。
その立役者となったドミトリー・セルゲイビッチ・サチノフ教授は物質が人体に活着する能力「重合体同化適応」を発見、ソビエト連邦は1955年に全ソ連人口の重合化を開始します。
これにより、ソ連の市民、ひいては世界中の人々が個人用の「ソート(思考)」デバイスを手に入れ、思考の力を制御するロボット機械との単一システムに入ることができるようになります。
ところが、人を助けるように設計された市民ロボットが反旗を翻し、ミュータントや恐るべき機械、超出力のロボットが生み出されます。
プレイヤーは、サチノフ教授から派遣されたKGBの少佐「P-3」となり、国家共通プロジェクト「3826号施設」の深部に激しい戦闘をくぐり抜けてたどり着き、そこにある秘密を暴かなければなりません。

本作を開発するMundfishは、欧州連合(EU)に加盟するキプロス在住のアルテム・ガレエフ、ロバート・バグラトゥニ、エウゲニア・セドワ、オレグ・ゴロディシェニンの4人が2017年に設立。
「BIOSHOCK」、「FALLOUT」、「DOOM」といった優れたゲームに匹敵するゲームのリリースを目標に掲げていますが、その第1作となる「ATOMIC HEART」はオリジナルで魅力的でユニークなゲーム体験を生み出すことに専念しています。
また、同社は、どの国の政治家でも政治的ツールでもなく、どの政治組織にも所属していないと宣言。
本作も、政治に関するものではないゲームで、アクション映画でありエンターテインメントであると断言しています。
実際、本作の開発スタッフは、キプロスのみならず、ポーランド、アルメニア、アラブ首長国連邦、セルビア、ウクライナ、オーストリア、ジョージア、イスラエル、と多岐にわたっています。
「私たちは、プレイヤーを楽しませ、挑戦し、喜ばせるために、空想し、没頭し、楽しませるためにゲームを作成するだけ」という意図は、ゲームの節々から伝わってきます。

さて、そんな本作は、パラレルワールドにおける1955年のソビエト連邦を舞台にしているわけですが、物語はその壮大で美しい景色の中で始まります。
プレイヤーはKGBの少佐「P-3」となりボートに乗って水路を進むのですが、その両側ではソ連の市民生活の中にロボットが浸透しているという摩訶不思議な光景が繰り広げられています。
折りしも、全ソ連人口の重合化開始を記念する式典やパレードが繰り広げられており、水路の両側はお祭り気分の華やかさに満ちあふれています。
ボートを下りてからも、そんな中を人々の様子を眺めたり、時には人々と会話しながら進んでいくのですが、人とロボットが共存するという不思議な光景とともに、ソ連の街並みの壮大さと美しさにも圧倒されます。
同社のゲームの目標として「BIOSHOCK」が挙げられていますが、「BIOSHOCK」は1960年代の大西洋が舞台となっており、本作の舞台である1955年のソビエト連邦ともクロスオーバーします。
プレイヤーが、どこか「BIOSHOCK」的なものを感じさせられるのは、それが同社のゲームの目標だったり、時代設定の近しさだったりするのと無縁ではないのでしょう。

そんな観光気分も、人を助けるように設計された市民ロボットが反旗を翻すところから一変。プレイヤーは、一観光者からKGBの少佐「P-3」への転換を迫られます。
そして、快晴で限りなく美しかった地上とは別れを告げ、陰鬱な地下を探索することになります。
地下では、1955年のソビエト連邦の極秘施設の中、探索と戦闘と謎解きがほど良くミックスされており、このあたりも「BIOSHOCK」を連想させられます。
また、これからしばらく付き合うことになる地下世界では、Xboxプレイヤーであれば「HALO INFINITE」だったり、「SCOON」だったりを思い出すことがあるかもしれません。
それは、本作がファーストパーソンシューターであるとともに、世界観に相通ずるものがあったり、それに見合う完成度の高さを持ち合わせているということも関係しているのではないかと思います。
陰鬱な地下世界を抜けると一転して色がある地上に生還できる、というところも共通しており、本作の場合にはその対比がより鮮明になります。
本作は、スタート地点がソ連の都市部だったのに対し、久しぶりの地上は彩り豊かでかわいらしい村になっています。
ただ、その村がモデル村落であるかのように人工的に作られた村を思わせ、既にロボットによって支配されているという現実を突きつけられることになります。

実際のところ、陰鬱とした地下から彩り豊かでかわいらしい村に抜け出せたと思ったのも束の間、地下が懐かしくなるような激しいロボットの”歓待”を受けるのです。
地下では一本道や閉鎖された室内空間などでロボットを相手するだけだったのに対し、地上はオープンワールドで全方向にわたってロボットの存在を意識しなければならないからです。
戦闘に関しては、地下ではロボットを次から次へと倒していくものだったのが、地上ではカメラやロボットに見つからないように進むというステルス要素もそこに加わってきます。
家の中にはラボテックがいるものの、屋外にいるロボットが家の中に入ってくることはほぼなく、ラボテックさえ倒してしまえば家の中は安全地帯になります。
こうして、屋外ではカメラやロボットに見つからないように移動しつつ、家から家へと縫うように進んでいくというプレイスタイルが定着します。
そこに、屋内外に点在するリソースをいかに回収していくか、セーブマシンまでどうやってたどり着くかという要素も加わってくるから大変です。
時には大胆にロボットとの戦闘を繰り広げ、時には繊細にステルス要素で進み、時には資源を回収して回らなければならないため、的確な状況判断力が要求されるのです。

本作はRPG要素を持つファーストパーソンシューターであるということからも分かるように、キャラクターや武器に成長要素があります。
手動ゲームセーブマシンに併設されることが多いピンクの機械「ノラ」では、スキルをアンロックしたり武器をアップグレードしたりすることができるのです。
複数のスキルや武器をアンロックしてアップグレードすることで、ロボットやミュータントなどとの戦い方を自分なりにカスタマイズすることが可能です。
武器に関しては、ストーリーの進行上欠かせない場所だけでなく、試験場に挑まないとアンロックできないパーツも多数含まれているため、試験場に立ち寄ることが強く求められます。この試験場に関しては後述しましょう。
武器は単にアップグレードするだけでなく、武器そのものに必要性を感じなければ解体することもできます。
アップグレードも、同じジャンルであれば、新たなアップグレードを施すことでこれまでのアップグレードをなかったことにできます。
このあたりが本作のユニークなところで、武器づくりや武器のアップグレードをやり直せるため、限られたリソースの有効活用が可能です。
これは、通常の戦闘もさることながら、中ボス戦、ボス戦で特に効力を発揮します。中ボス戦、ボス戦を何度かやり直す過程で、いろいろな武器を試すことができるからです。

リソース探しについてふれておくと、本作ではRBボタンを押してRBボタンを長押ししてスキャナーを起動させればリソース(のありか)が光って表示されるし、リソースに近づくとRBボタンで教えてくれもします。
しかも、RBボタンを長押ししてリソースの近くに行けば自動的に回収してくれるので便利です。リソースの回収自体も、数に制限がなく、あるだけ回収することができます。
ただし、制限数以上のリソースはノラにアクセスしてストレージから所持品に移動させなければ使うことができません。
このあたりは、無制限にしてもゲーム性が大味にならないと思われるため、制約はなくても良かったかなと思います。
随所に見られる話しかけられる死体も、光って近くに行くとRBボタンが現れるのですが、なぜかRBボタンが現れず話しかけられない死体が少なからずいました。
この件に関しては実績にもかかわってくる項目だけに、バグをなくしてほしかったところです。

本作の敵は、機械であるロボットと生体に大別されます。
ロボットは、人型のラボテックをはじめ、エンジニア、レイバラー、ドク、ヴァトルシャカといった歩行型ロボットから、オウルやピチェラといった飛行型ロボット、ベルヤッシュやヘッジ―、ナターシャといった中ボスまでバリエーション豊かです。
生体は、人型のミュータント、マザーから吐き出されるスプラウト、中ボスのプリュシとデュードロップが主なものです。
いずれも興味深いデザインが施されており、ラボテックやミュータントなどはタイプ違いもあり、この多様さが本作を面白いものにしています。
また、敵ではなく擬人ロボット型アシスタントであるテレシコヴァのデザインは、マネキンのようなルックスとシルバーのかぶりもののような髪型で見る者を惹きつけるものがあります。
このあたりは敵ロボットであるラボテックも同様で、スキンヘッドにチョビ髭という外観は恐怖を越えたユニークさをプレイヤーに抱かせることでしょう。

試験場は、1番から12番まで飛び番で8個あり、ストーリーを進める過程で番号順ではないものの立ち寄ることができます。
たいていの試験場は、近くにあるヴォランを使ってカメラを見てRBボタンを押してドアをアンロックすることで入れるようになります。
試験場はいずれも、パズル、戦闘、中ボス戦が単独もしくは複数で組み合わされており、特にパズル要素で知力を使うことになります。
本作はRPG要素を持つファーストパーソンシューターであると書きましたが、試験場に関してはアドベンチャーゲームが中心で、そこにファーストパーソンシューター要素が加味されたと言っても差し支えないと思います。
パズルは理詰めで解いていくものが多く、パズル好きであればけっこう楽しめます。もっとも、そんなに頭を悩ませずともトライアル&エラーでなんとかなったりもするので、パズルは苦手という人でも大丈夫でしょう。
そもそも、すべての試験場に武器のアップグレードが用意されており、これらを回収しないと武器のアップグレードもままなりません。
また、リソースも豊富に置かれているため、スキルや武器のアップグレードも円滑に進めることが可能になります。

グラフィックは、インディーズと言っても差し支えなさそうな同社の第1作としては世界観も含めてかなりのレベルにあり、キャラクターの造形やモーションも素晴らしいものになっています。
ただ、地形によってプレイヤーキャラクターがはさまって動けなくことが何度かあり、このあたりはしっかりと作り込んでほしかったところです。
本作がファーストパーソンシューターでキャラクターの表情が普段は見えない分、カットシーンではキャラクターの外観がたっぷりと描かれ、ストーリーもしっかりと語られるため、エンターテインメントとしても一級品と言えます。
サウンドは、リリース当初は日本人プレイヤー的には英語音声・英語字幕だったのですが、すぐに日本語字幕も使えるようになりました。
独自の世界観やストーリーが語られるゲームであるため、日本語字幕はないよりはあった方が物語により深くかかわることができるでしょう。
また、リリース後2ヵ月弱で日本語音声も追加され、豪華声優陣が起用されており、壮大なストーリーを字幕を見ずとも理解しやすくなっています。

本作は、このように素晴らしい作品に仕上がっているのですが、唯一、残念なことがあります。それは、実績に関することです。
本作は、実績に関係するバグが少なからずあり、私もそのバグの影響をまともに受けました。
私は、実績「アトミックハート」(アルマゲドンでゲームをクリアする)を解除するため、終始、難易度「アルマゲドン」でプレイしてクリアしたのですが、残念ながらこの実績は解除されませんでした。
また、病院に着いて以降のストーリーの進行とともに自動的に解除される実績も解除されることがなく、死体に話しかけたり、チャーパーを集めたりする実績も途中からカウントが止まってしまいました。
そのため、解除されるはずの実績が5個以上は解除されていないという前代未聞の状態に陥ってしまったのです。
もっとも、この件に関しては4月6日のタイトルアップデートにより解消され、レア実績が一気に7個も解除されたので良かったです。
ちなみに、「新規ゲーム」をクリックするだけで良く、新規でゲームをプレイする必要はありません。
それでも、ゲームクリア後は「3826号施設」には行けるものの、ゲーム序盤のエリアには戻ることができないため、ゲーム序盤で取り損ねた実績はニューゲームで最初からプレイするしかありません。
このあたりは、実績関係のバグのパッチとともに、チャプターセレクトのようなものを入れてほしいところです。

ここまでいろいろと書いてきましたが、本作の世界観は「BIOSHOCK」や「SCOON」などに匹敵するものがあり、ファーストパーソンシューターとしても十分に楽しむことができます。
また、スキルや武器を成長させるRPG要素や、試験場を中心にパズルが楽しめるアドベンチャー要素も楽しいものに仕上がっています。
そのため、「私たちは、プレイヤーを楽しませ、挑戦し、喜ばせるために、空想し、没頭し、楽しませるためにゲームを作成するだけ」という意図が十二分に具現化されたゲームに仕上がっていると言えます。
完全な新作として楽しむのはもちろんのこと、「BIOSHOCK」を彷彿させるゲームとしてノスタルジーを感じたり、「SCOON」のような壮大な世界観を持つ新たなゲームを体感したり、人それぞれの感覚で本作を味わってほしいと思います。
老婆心ながら、単にストーリーを追うだけでなく、試験場まで遊び尽くすことで、より充実したゲーム体験が得られること請け合いです。

【ウォークスルーインデックス】
#1(死ぬまで休むことなし、コンプレックス)
#2(いったい全体、何に巻き込まれた?、ヴィクトル・ペトロフ: 生死不問の指名手配、障害がもう一つ)
#3(ヴィクトル・ペトロフ: 生死不問の指名手配、はやすぎる、少佐)
#4(ヴィクトル・ペトロフ: 生死不問の指名手配、追跡行)
#5(追跡行)
#6(追跡行、手入れされていない公園で・・・)
#7(手入れされていない公園で・・・、時間との戦い、再起動、そして世界は燃え上がった、火星を緑化しようとしている、炎の中へ)
#8(手入れされていない公園で・・・、花の行列)
#9(手入れされていない公園で・・・、自業自得、敵と閉じ込められている、命がけで逃げろ)
#10(新鮮な空気、田舎の家、SDC-2 VOLAN操作マニュアル)
#11(早朝特急、卓越、ソレンチェナヤ行きの列車)
#12(すばらしい新世界、試験場1)
#13(すばらしい新世界、試験場6)
#14(すばらしい新世界、試験場9(通電))
#15(すばらしい新世界、試験場9)
#16(すばらしい新世界、暗いガラス)
#17(手を触れるな!、システムのバグ、隣のヴォヴァはよく柿食うヴォヴァだ)
#18(隣のヴォヴァはよく柿食うヴォヴァだ、少佐と魔女と倉庫)
#19(赤い矢、隣のヴォヴァはよく柿食うヴォヴァだ、地震)
#20(地震、隣のヴォヴァはよく柿食うヴォヴァだ、冠をいただく者、心休まらず)
#21(冠をいただく者、心休まらず、隣のヴォヴァはよく柿食うヴォヴァだ、システムのバグ)
#22(システムのバグ、ショーは続けねばならない)
#23(試験場8)
#24(ショーは続けねばならない、試験場10)
#25(試験場2)
#26(ショーは続けねばならない(ベルヤッシュ戦))
#27(オペラ座のペトロフ、青天井、鍵と鍵の下)
#28(鍵と鍵の下、パスワードの体をなしていない、舞台が絞首台となる、芸術とは虐殺だ!、オペラ座のペトロフ、戦うおばあちゃん)
#29(試験場11)
#30(病院)
#31(病院、試験場12)
#32(病院、血液急便)
#33(血液急便)
#34(そして世界は燃え上がった、どん底、精神病院、不都合な真実、サチノフには手を出せないエンド)
#35(最後)

(C) 2022 Atomic Heart, the game developed by Mundfish and published by Focus Entertainment. Atomic Heart and Mundfish are registered trademarks of Slimao Limited dba Mundfish. Focus Entertainment and its logos are registered trademarks of Focus Entertainment. All other trademarks and logos belong to their respective owners. All rights reserved.

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