「BEACON PINES」レビュー&ウォークスルーインデックス

「BEACON PINES」は、神秘的な本の中を舞台にしたキュートでとても不思議なアドベンチャーゲームです。プレイヤーは、その本の読み手であるとともに主人公であるルカとしてプレイします。
ルカとなってビーコンパインズで起こる怪しい事件を調べていると、言葉が刻まれた黄金の「チャーム」が手に入ります。この「チャーム」を使えば、物語の特定の分岐点に用意された「言葉の空白」を埋めて、ストーリーの展開を大きく変えることができます。
ある一連のイベントを体験すると新しい「チャーム」がアンロックされ、物語が新たに分岐します。全く異なる物語の間を行き来してビーコンパインズの奥底に潜む謎を解き明かしていきます。

本作を開発したHiding Spot Gamesは、テキサス州オースティンを拠点とするインディーゲーム開発会社で、チームメンバーは世界中に散らばっています。
同社のすべてのプロジェクトに共通するのはフィーリングです。音楽、アート、ストーリー、ゲームプレイのすべてが、その共通の目標に役立っています。
「Ephemerid: A Musical Adventure」は、2015年にiOSとSTEAMで発売された音楽アドベンチャーゲームで、IGF賞の優秀オーディオ部門を受賞。
「Flipping Legend」は、iOSとGoogle Playで発売されたアクションゲームで、Metacriticで2017年全体のiOSゲームとして最高評価を獲得。
そんな同社の最新作となるのが本作で、Steamだけでなく、「Xbox」、「Nintendo Switch」といったコンシューマーゲーム機でも初めてリリースされます。
過去2作品をはるかにしのぐスケールで、ストーリーやゲームプレイはこれまでで最も野心的なプロジェクトとなっています。

前述したように、物語の舞台は神秘的な本の中に描かれたビーコンパインズ。
プレイヤーがルカを操作してビーコンパインズの町を探索していると、本のナレーターが華麗な語り口で物語に割り込んできます。
そこでゲームは中断されるのですが、単に状況を説明するだけだったり、チャプターの変わり目として物語をより深く分かりやすく説明してくれたり、ルカを操作するプレイヤーに決断を迫ったりします。
プレイヤーは、そのたびにルカであったり本の読み手であったりするため、ルカに深く感情移入しながらプレイしていたものが、突然、本の読み手として状況に応じた客観的な判断を求められたりすることになります。
そのあたりがこのゲームの面白いところで、「PlayStation VR」の名作ゲームの1本である「Moss」のシチュエーションに似たところもあります。
もちろん、「Moss」はリアルなVRゲームでアクションゲームの要素が強かったのに対し、「BEACON PINES」はアニメ絵のアドベンチャーゲームではあるのですが、それでも斜め見下ろし型の視点も含め両者が似通っているのは興味深いところです。

本作の主人公であるルカは、6歳の時に父を亡くし、母も行方不明になり、現在は祖母と一緒に暮らしています。
そんなある日、親友のロロと一緒にビーコンパインズの町に出かけます。折りしも町ではフェスティバルの準備中です。
2人がその先にあるヴァレンタイン・ファータイザーの放置されたビルまで行くと、ビルからは煙が流れ、ドアから伸びたホースからは液体が流れ、ゴミ箱はひどい臭いがし、中からは防護服を着た者が出てきます。
町の異変に気づいた2人は、そこから少年探偵団よろしく、新たに加わったベックととも密かに調査を開始します。
彼らが調査を進めていくと、それは町人たちを巻き込んだ、3人の想像を絶する大きな事件へと発展していきます。
ここまでならよくあるアドベンチャーゲームなのですが、本作が他と異なるのは本作の醍醐味である「チャーム」とターニングポイントを表す「ツリー」が存在することです。

冒頭でも書いたように、本作では物語を進める中で言葉が刻まれた黄金の「チャーム」が手に入ります。この「チャーム」を使えば、物語の特定の分岐点に用意された「言葉の空白」を埋めて、ストーリーの展開を大きく変えることができます。
この「チャーム」は、物語を進めるだけで自動的に手に入るものもあれば、特定の場所を調べたり、特定のイベントを起こしたりしなければ手に入らないものもあります。
そして、「言葉の空白」には、その時点で所有している「チャーム」の中からゲーム側でピックアップしたものを入れることができます。
そのため、「チャーム」の所有数がどんどん増えていっても、使える「チャーム」は限られているわけです。場合によっては、ひとつの「チャーム」しか選ぶことができず、ほぼ決められたストーリー展開になります。
ところが、新たな「チャーム」を手に入れた上で同じ「言葉の空白」を入れる場面が現れた場合、今度は複数の「チャーム」の中から任意の「チャーム」を選んで入れることができるようになります。
すると、これまでとは全く異なったストーリー展開が現れ、謎の真相により近づけるようになるというわけです。

また、この「チャーム」とは別に、ターニングポイントである「ツリー」も本の中にはあります。
この「ツリー」は物語のこれまでの分岐が枝分かれして「ツリー」に表示されており、プレイヤーは「ツリー」の任意のポイントから物語をやり直せるようになります。
「ツリー」は、プレイヤーがプレイを繰り返せば繰り返すほど成長していくため、プレイヤーがやり直せるターニングポイントも増えていきます。
また、本を開けばいつでも「ツリー」を見たりターニングポイントからやり直したりすることができるため、「チャーム」よりも融通が利くとも言えます。
言葉の空白に「チャーム」を入れる、「ツリー」のターニングポイントを選んでプレイをやり直す、この両輪により本作が進んでいくというわけです。
どちらも難しい選択を迫られるわけですが、選択肢が増えたり、新たな選択肢が増えるということは、プレイヤーが物語の核心に迫っているという証左でもあり、アドベンチャーゲームとしての醍醐味を味わっている瞬間でもあります。

本作のグラフィックは、視点は低いものの斜め見下ろし型のクラシックなRPGやアドベンチャーゲームではおなじみの視点が採用されています。
また、画面いっぱいにフィールドや部屋の中が描かれるのではなく、中心部を切り取ったジオラマ的な画面構成が採用されています。
そこを登場人物たちが動き回るわけですが、キャラクター同士の会話シーンになるとバストアップのキャラクターが表示され、会話内容も吹き出しとして表現されます。
つまり、グラフィック面ではクラシックかつオーソドックスな表現がなされているわけで、そこに先進とか最先端と言えるようなものは存在しません。
実際のところ、本作は「Xbox One」と「Xbox Series X|S」両対応ではあるものの、4K、60FPS、HDRといった高品質なグラフィックは採用されておらず、目を見張るような美しさも持ち合わせていません。
登場人物たちがすべて動物であるというのも特徴的なところでしょう。私はファーストパーソンアドベンチャーゲームである「EASTSHADE」もプレイしていますが、これも登場人物はすべて動物です。
登場人物をすべて動物にすることで柔らかさを醸し出したり特徴づけをしたりするのは簡単にはなるものの、なぜ動物なのかという疑問は残るもので、個人的には普通に人間で良かったと思います。

サウンド面で癖が強いのも本作の特徴と言えるでしょう。本作は、キャラクターがいつもしゃべるにはしゃべるのですが、それをフルボイスと呼べるかというと悩みどころなのです。
と言うのも、本作の登場人物は主人公、主要登場人物、脇役を問わず、全員が「プププ」、「ピピピ」など意味のない発声に若干の抑揚をつけてしゃべるだけなのです。
そのため、吹き出しを読まないと何を言っているのか全く理解できません。もっとも、吹き出しと言っても英語のため、意味を理解するためにはある程度の英語力は必要になります。
ところが、これとは正反対に、本のナレーターは華麗な語り口で状況を説明したり、本に書いてあることを読んだりしてくれます。今は朗読してくれる小説もありますが、それを聞いているのと同じようなものです。
もちろん、ナレーターが語っていることはすべて文章になっていますし、本に書いてあることはそのまま読んでいるため、こちらもある程度の英語力があれば理解できます。
物語の登場人物は意味のない発声に若干の抑揚をつけてしゃべらせる、本のナレーターには華麗な語り口で語らせる。
こういう設定になったのは不思議なところですが、意図があってそうしたものなのか、声優代をケチったものなのか、容量を圧縮したかったのか、真実は謎のままです。

このように本作は、ゲームシステム、グラフィック、サウンド、特にゲームシステムとサウンドは特徴的なものを持っています。
もちろん、アドベンチャーゲームとしてのゲーム展開は人を惹きつけるものがあり、ゲームオーバーになったと思ったところで任意のターニングポイントからやり直せるという面白さもあります。
そのため、プレイ時間が短いのかと思いきや、何度もやり直すことでプレイ時間は伸びていくため、思ったよりもボリュームがあるゲームになります。
もちろん、プレイ時間が何十時間とか100時間を超えるようなゲームに比べると小品ということになりますが、それでも過不足なく楽しめるはずです。
そして、その楽しさは同じ物語でありながら全く別の展開が待ち受けていることで、プレイヤーがその繰り返しに飽きるということはありません。
そんなわけで、アドベンチャーゲーム好きであるならば、プレイするゲームの1本に加えてみる価値は十分にあるのではないかと思います。
本作は、「Xbox Game Pass」の大作・話題作群に埋もれてしまいがちな小品ではありますが、アドベンチャーゲーム好きならぜひプレイしてみてほしいです。プレイし終えたら、意外と良かったなと思ってもらえるはずですから。

【ウォークスルーインデックス】
#1(CHAPTER 1: NORMAL ISN’T WHAT IT USED TO BE、CHAPTER 2: WELCOME TO BEACON PINES)
#2(CHAPTER 3: FINDING A FRIEND)
#3(CHAPTER 4: DINNER WITH THE MOEDWILS)
#4(CHAPTER 5: FRIENDLY FEUD、CHAPTER 6: THROUGH THICK AND THIN)
#5(CHAPTER 5: WHAT BIG EARS YOU HAVE、CHAPTER 6: SECRET LAYER)
#6(CHAPTER 7: THE INTERROGATION OF HIRAM TOLLIVER、CHAPTER 8: SIX FEET UNDER, THREE TOWNS OVER、CHAPTER 9: A SPEECH TO END ALL SPEECHES)
#7(CHAPTER 8: THE COLD HARD TRUTH)
#8(CHAPTER 4: THE BEST POLICY、OUR HARVEST AWAITS)
#9(CHAPTER 5: SIGNS、CHAPTER 6: THE SOURCE)
#10(CHAPTER 8: THE COLD HARD TRUTH、CHAPTER 9: THE DEVIL YOU KNOW)
#11(CHAPTER 5: DANGERS BIG AND SMALL、CHAPTER 6: THE HEIST、CHAPTER 7: INTO THE HIVE、CHAPTER 8: COMEUPPANCE、EPILOGUE)

(C) Hiding Spot LLC

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