「添丁の伝説」は、1909年の台湾台北市大稲埕(だいだいとう)エリアを舞台に繰り広げられる横スクロール2Dアクションゲームで、中国の伝統的な漫画スタイルで表現されています。
台湾は、1894年から1895年にかけて勃発した日清戦争で敗れ、1895年の日清講和条約により日本に割譲され、日本統治時代が始まります。
1898年に陸軍中将の児玉源太郎が第4代台湾総督として着任すると、日本の植民地支配が本格化します。
台湾は、日本統治時代に近代国家として発展し、様々な面において近代化がなされます。
その一方で、文化の違いに端を発する摩擦や紛争が起こり、官僚や警察官の不正や横暴に対する不満もあり、抗日闘争も散発的に発生していました。
本作は、以下で紹介する事件や人物の歴史的背景をもとに、見過ごされがちな時代と場所を掘り下げて脚色されたものです。
本作を開発したのも、台湾台北を拠点にするCreative Games Computer Graphics Corporation(CGCG)で、当事国ならではのきめ細かいストーリー展開が楽しめます。
本作の舞台となる大稲埕は、現在の大同区で北部エリアに位置し、台北市でも古い市街地のひとつとなっています。
大稲埕は、1853年に械闘に敗れた移民がバンカから逃れて開墾した移民集落から始まります。
1860年に淡水港が開港すると、商業・貿易・運輸の中心地として賑わい、文化も花開きます。華やかなバロック式建築、伝統的な閩南式平屋、ハイカラな赤レンガ洋風建築が立ち並んだのです。
また、1865年にイギリス人のジョン・トッドが訪台し、泉州安渓の茶苗を導入して栽培させることで、お茶屋が林立し、お茶商売でも繁栄します。
ゲームでは、大稲埕のうち、東の台北駅から西の淡水河に面した港町が主要エリアとなり、スタート地点となる永楽町をはじめ、北門町、日新町、蓬莱町、港町を行き来することになります。
これらの地域は、史実同様に賑わいを見せ、バロック式建築やハイカラな赤レンガ洋風建築が立ち並びます。
また、淡水河をはさんだ対岸には神々しい観音山があり、抗日勢力の拠点であるチョウツァイ村も存在します。
本作の主人公となる廖添丁(りょうてんてい、リャオ・ティエンディン)は、台北市の自警団員で日本の植民地時代の1909年8月から窃盗を繰り返して行い指名手配もされていた人物です。
彼は、不正に手に入れた金で財を成した者から盗み、虐げられた貧しい人々に分け与えます。
そのため、日本の統治者からは厄介者扱いされたものの、台湾の人々にとっては英雄以外の何者でもなかったのです。
ゲームでは、彼はしばらく姿を消していましたが、茶葉会社の社長である王文長の横暴な振る舞いに久々に姿を現すというところから始まります。
中国の伝統的な漫画スタイルとともにスタイリッシュに登場するのですが、短刀、腰帯に、スピーディーなカンフーで、暴君に制裁を与え、正義を貫くのですから、まさにヒーローそのものです。
プレイヤーは、彼を操って、腰の帯やフックを使って戦場を飛び回り、高度な空中コンボを繰り出し、敵から武器を盗み、権力者たちをスタイリッシュに打ち倒していくことになります。
本作は、大稲埕エリアを移動して街の人たちに話しかけると依頼を受けることができます。
依頼は、物語を進める上で欠かすことができない「第一目標」と、必ずしも行う必要がない「第二目標」に分かれます。
依頼が発生すると、マップ上に「第一目標」と「第二目標」が色違いの「!」で表され、そこで依頼が発生したことが分かります。
それらの依頼を進めるためには、街の人たちや仲間に話しかける必要があります。
街中には乞食がいて「だんな、何か恵んでくれないか?」と頼まれるのですが、そのお返しとして戦闘能力をアップさせるものをくれるので、積極的にお金を恵むといいでしょう。
日新町にいるユウ料理長からは、回復アイテムである「グアバオ」を買うことができます。
このゲームは最初を除いて回復アイテムが増えないため、できるだけたくさん買っておかないとボス戦で苦労させられます。
もちろん、お金がかかるのですが、街でチンピラなどに絡まれている人を助けるとお金がもらえます。
街から街への移動は停留所で人力車に乗ることができるのですが、街もそんなには広くないため、お金を集めるためにも走って移動した方がいいでしょう。
また、ウー・ルチアンに話しかけると、「基本操作チュートリアル」、「記憶を追体験する」を選ぶことができます。
街のちょっとした広場には楽器奏者がおり、「リャオ・ティエンディンの伝説の歌」を聴くことができます。5分近くある曲だと思いますが、最後まで聴くと実績が解除されるため、しばらく放置しておくといいでしょう。
これらの用事が済んだら、「第一目標」と気が向いたら「第二目標」にとりかかります。
「第一目標」と「第二目標」は、大稲埕を移動して誰かに何かを届けるといったものと、ゲームの軸となるいわゆるダンジョン系に分かれます。
いわゆるダンジョン系は、通常は大稲埕エリアのどこかから行くことになります。それらは、下水道、軍工場、高速列車、ヤオ霊廟などです。
全六章の大半は、このダンジョンを敵を倒しながら進み、最後に待ち構えるボスキャラを倒すことでクリアになります。
2D横スクロール型のダンジョン内は、様々な仕掛けが施されており、その仕掛けをかいくぐったり解除したりしないと先に進むことができません。
また、ダンジョン内には敵が徘徊しており、基本的にはその敵を全滅させる必要があります。
敵の武器を奪って使うこともでき、道中にある壺を壊せば「グアバオ」が現れて体力を回復させることができます。宝箱からは、貴重なアイテムを取ることも可能です。
ダンジョン内にはお茶を飲むところが頻繁にあり、ここでセーブできるとともに、体力の全回復が行え、「お守り袋」の内容も変更できます。
ダンジョンは、ほぼ一本道なのですが、道が分かれていることもあり、実績にもあるダンジョン内すべてを踏破するのは簡単ではありません。
各章の最後などに待ち受けるボスキャラは実績にもなっている以下の6人です。
悪徳商人・王文長(ワン・ブンチョウ)。
人間凶器・中村道明(なかむら・みちあき)。
魅惑の忍・川島輝夜(かわしま・かぐや)。
武道家・陳良久(チュン・リャンジョウ)。
宗教詐欺師・丁棚(ディン・ペン)。
乙未の鬼蛇・島田雄之進(しまだ・ゆうのしん)。
これら6人には様々な特徴があり攻撃内容も色々ですが、個人的に手こずったのは、中村道明、川島輝夜、島田雄之進の3人。逆にそれほどでもなかったのは、王文長、陳良久、丁棚の3人。
前半3人は、日新町にいるユウ料理長から回復アイテムである「グアバオ」を買わないと回復が増えない、ということに気がついていなかったこともあると思います。
ただ、川島輝夜に関しては、攻撃が多彩かつ強烈であり6人の中でも頭を使いつつ機敏な操作が要求されたため苦戦しました。
王文長は最初のボスだけにあまり強くはなく、陳良久はなぜか1回であっさりと倒すことができ、丁棚は多数の敵を巻き込んでの混戦が面倒なだけでした。
中村道明は、仕掛けをうまく使うことで攻撃を避けたり逆にヘルスを削ったりできるということに気がつけば、そこからは早いと思います。
島田雄之進はラスボスなので、多彩かつ強力な攻撃を繰り出してきます。空中戦が有効でしょう。
さて、本作は、横スクロール2Dアクションゲームで、中国の伝統的な漫画スタイルが施されたゲームですが、少し色物的な印象とは裏腹に、グラフィックは4K、60FPSがおごられています。
横スクロールで描かれた大稲埕の街並みは、4Kというほど美しくも感じないのですが、よく見るとキャラクターのグラフィックはしっかりと書き込まれており、60FPSのモーションも問題ありません。
また、ビルなどに掲げられた看板は日本の漢字で彩られ、日本でも有名な会社名も見受けられ、日本人なりに親しみも湧いてきます。
ダンジョン内も、4Kと言うほど美しい感じはしないのですが、視認性はそんなに悪くはないので、プレイはしやすいでしょう。
中国の伝統的な漫画スタイルと言う点は、物語の肝となるところが漫画で描かれ、街中やダンジョンに比べるとより華やかな色使いがなされており、見る者を楽しませてくれます。
さらに、本作は、第一章から第六章までの章立てになっているのですが、それぞれの章の最初にその章を盛り上げる漫画とナレーションが入ります。
本作は1章あたり急ぎ足かつ滞りなく進めれば1時間強といったところですが、この前振りが海外ドラマのようでまさにワクワクしながら次の章に進めたものでした。
サウンドは、日本語字幕を選ぶことができ、これといって違和感のない翻訳で楽しませてくれます。
登場人物に日本人もいるため、一部音声は日本語になっています。時折、日本語のイントネーションがおかしなこともありますが許容範囲でしょう。
本作は、難易度を選ぶことができ、いつでも変えられます。「心優しき泥棒」は、全ストーリーを過度な負荷なくプレイできます。「指名手配犯」は、ステージ難易度が上がり、敵も手ごわくなり、スリリングな冒険を楽しみたい人向けです。
本作には難易度実績があるため、それも解除しようと思うなら「指名手配犯」一択ですが、私は2D横スクロールアクションゲームは得意ではないのと、最初から実績コンプリートを狙っていなかったため、「心優しき泥棒」を選びました。
「心優しき泥棒」でプレイした感じでは、前述したように一部ボス戦で手こずったぐらいですが、これも日新町にいるユウ料理長から回復アイテムである「グアバオ」を買い込んでおけばあまり問題なかったように思います。
操作性は、2D横スクロールアクションゲームとしては良好と言えるでしょう。ダンジョン内部で仕掛けを回避する部分でも、操作性が問題で困るということはありませんでした。
ただ、戦闘は、コマンド入力が少ないという点では楽だったのですが、その分、XボタンやBボタンといった特定のボタンを連打することが多く、1日がかりでクリアしたら親指の付け根が痛くなりました。
実績の解除や再プレイに関しては、かなり不親切な仕様になっています。
ゲーム中、ウー・ルチアンに話しかけると「記憶を追体験する」を選ぶことができるため、クリア済みの章もプレイできると思うのですが、第六章まで進んでしまうと選ぶことができません。
また、いったんゲームをクリアすると、完全に「New Game」からしか始めることができず、チャプターセレクトもなければ、アイテムの持越しもありません。
本作では実績の項目が1回のプレイでは解除しづらいものが多く、マルチエンディングにもなっているようなので、このあたりの配慮はほしかったところです。
ちなみに、廖添丁は、1909年11月9日に八里区阡山で友人の楊林に26歳という若さで殺されてしまいます。
このあたりがエンディングや実績にかかわってくる要素であるようで、リプレイ性も高めてほしかったところです。
このように、本作は、マルチエンディングや実績という点においてリプレイ性にこそ問題があるものの、物語や演出、操作性という点では十分に楽しめます。
日本人が知らなかった台湾の歴史や街について知ることもできますし、プレイする価値は十分にあると思います。
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