「ROAD 96」レビュー&ウォークスルーインデックス

「ROAD 96」は、絶え間なく変化し続ける物語主導のアドベンチャーゲームで、映画監督である、アメリカのクエンティン・タランティーノ、アメリカのジョエルとイーサンのコーエン兄弟、韓国のポン・ジュノにインスパイアされて制作されています。
開発はDigixArtで、フランス南部のモンペリエ、海の近くにあるゲームスタジオです。「VALIANT HEARTS -THE GREAT WAR-」と「11-11 MEMORIES RETOLD」で数々の賞を受賞したクリエイター陣が開発に当たっており、「INDIE Live Expo Winter 2021」で「INDIE Live Expo Awards」大賞を受賞しています。
物語は、1996年の夏、独裁国家ペトリアが舞台。そこに住む名もなき若者たちは、自由と安全な未来を求めて国の北部から国境を超える旅に出ます。
彼らは、狂気に満ちたロードトリップの道中で、美しいロケーションを発見したり、個性的な人たちと出会ったりします。
ゲームには、1990年代のヒット曲が詰まったサウンドトラック、千にも及ぶルートが用意されており、プレイヤーは自分だけの独特なストーリーを創り上げることができます。

本作は、エピソードが最低6個、最大で10個用意されています。プレイヤーがランダムで選んだ若者となってエピソードを終えるとゲームは仮のエンディングとなり、再び、別の若者をランダムで選んで次のエピソードに挑むことになります。
プレイヤーが選んだ若者が捕まったり死んだりしないで国境を越えることができればエピソードは成功となり、ゲーム開始から1人も捕まったり死んだりしないで国境を越えることができればエピソード6でゲームが真のエンディングを迎えます。
真のエンディングとは、独裁国家ペトリアの現職国家主席であるタイラックを、9月6日の選挙で対立候補であるフローレスが打ち負かして革命が成功することです。
しかし、エピソード6で真のエンディングを迎えたとしても、物語をすべて見たことにはなりません。道中で遭遇する7人(7組)のNPC(操作できないキャラクター)がおり、それぞれに深い物語があるからです。
人気記者のソーニャ、同じく国境越えをめざすゾーイ、強盗のミッチとスタン、トラック運転手のジョン、タクシー運転手のジャロッド、警官のファニー、天才少年のアレックス。
彼らの多くは表向きの顔だけでなく裏の顔を持っていたり、それぞれが複雑に絡み合っていたりします。
エピソードを6までであっさりと終えてゲームもやめてしまうと、それらすべてを見ることができないのですが、彼らとの旅を繰り返すことで彼らの裏の顔だったり関係性だったりをすべて見ることができるようになるのです。
マップ画面で、彼らの顔とともにパーセンテージが表示されているのも、彼らについてどこまで知ることができたかが分かるようにとの配慮からです。

プレイヤーは、北の国境をめざす道中の移動手段として、歩く、ヒッチハイクする、バスに乗る、タクシーを呼ぶ、クルマを盗む、という方法を選ぶことができます。
ただし、常にそのすべてを選ぶことができるわけではなく、その時々でどの移動手段を選べるかが異なります。
歩く、ヒッチハイクする、というのは比較的オーソドックスな移動手段ですが、バスに乗る、タクシーを呼ぶ、はお金を持っていてバス停や電話がないと選べませんし、クルマを盗むは、クルマが放置されていて、鍵を開けるスキルもないと選べません。
どの移動手段を選ぶかにより、次に7人(7組)のNPCの誰と出会うかが決まってきます。また、出会ったNPCとは、既に見たストーリーが選ばれることはなく、新たなストーリーが選ばれるようになります。そのため、彼らについてより深く知ることができるようになります。
プレイヤーは1人称視点で国境を越える若者になりきり、その時その時で様々な選択を強いられることになるのですが、実は、プレイヤーが国境を越える物語であるとともに、7人(7組)のNPCのストーリーを紐解いていく物語でもあるのです。
プレイヤーは、「ROAD 96」という脱出ゲームを楽しむとともに、「ROAD 96」というストーリー性の高いアドベンチャーゲームも楽しんでいるというわけです。

実際のところ、7人(7組)のNPCのストーリーがあることでゲームがより深いものになっているのは確かなところで、ゲームを進めていけば、国境を越えるという直接的な目標よりも、7人(7組)のNPCのストーリーを進めることの方が楽しく思えてくるぐらいです。
プレイヤーが操作する若者が国境を越えるためには、エネルギーを維持・回復させるために飲食したり、バスに乗ったりタクシーを呼んだりするためにお金を調達したりする必要があります。
そのため、飲食物やお金を拾ったり盗んだりすることがあれば、鍵をアンロックして部屋の中に入ったり、クルマを盗んだりすることもあります。そうした非道徳的な行為が国境を越えるために不可欠な場合もあり、良心の呵責との戦いになってきます。
それでも、7人(7組)のストーリーを進める上で、こうした方がいいだろうという考えもふつふつと湧いてきて、それが良心の呵責を上回ることがあるのです。
移動手段を考える際も、エピソードを重ねていくと、この移動手段を選ぶとこのNPCに会えるのではないかという本末転倒な考えまで起きてきます。
しかし、これこそがこのゲームの真骨頂であり、独裁国家ペトリアで暮らす様々な立場の人たちの暮らしと、9月6日の選挙に向けた彼らの立ち位置を垣間見て紐解くことでゲームをより深いものにするのです。

グラフィックは、1人称視点の3Dで、比較的リアルなアニメ絵の中を移動先で歩き回ることができるのですが、道路や山道には見えない壁があり、建物とその周囲以外は決められた場所にしか行くことができません。
グラフィックは自体は、特に美しいというわけではなく、3Dではあるもののアニメ絵的でリアルさや立体感はそれほどではありません。
グラフィックの美しさを堪能するゲームではなく、その時その時の選択や7人(7組)のNPCのストーリーを楽しむゲームだと言えるでしょう。
サウンドは、キャラクターのセリフはフルボイスになっており、ボイスアクティングは特に問題ありません。物語を楽しむに十分なボイスアクティングになっています。
日本語の吹き替えはなく、英語音声・日本語字幕ですが、翻訳はおおむね良好であまりにも不自然だとか意味が分からないということはありません。
ただ、敬語表現におかしなところが時折あり、急に丁寧語になったりするのは少し気になりました。もっとも、それも慣れの範囲ではあります。
操作性は、道路や山道に見えない壁があったりして歩きづらい場合があるものの、移動に関しては簡単に走ることもできるし、アイテムを取ったり選択したりする際もおおむね良好です。
ただ、急にやることができなくなる場合がちょくちょくあり、その際には周囲を見回さなければならないことが多く、その点は少し不親切な感じはしました。

このように本作は、アウトラインを見ただけでは、若者たちを操作して国境を越えることが目標のゲームで、NPCはそれを助けるために存在するものだと思いがちです。
しかし、実際のところは、若者たちを操作して国境を越えるという目標をめざしつつ、7人(7組)のNPCのストーリーを紐解いていくゲームだということが分かるでしょう。
その過程で、その時その時にどのように選択するかという面白さがあり、その選択がどのような結果を招くかを身を持って知り、NPCのストーリーがどう展開していくかを特等席で眺める、という幾重もの楽しみ方を堪能できるのです。
ひとつのエピソードを終えて、次のエピソードをまた一からやり直すというのは面倒に感じるかもしれませんが、エピソードを繰り返すごとにNPCの新たなストーリーを見せてくれるため、今度はどんなお話が繰り広げられるのだろうかというワクワク感があります。
無事に「ROAD 96」を迎え国境を越える方法ですら、エピソードごとに異なってくるため、次はどんなルートで国境を越えるのだろうかという期待感が膨らみます。
1~2時間ほどのエピソードを何度も繰り返すことで新たなストーリーや国境越えが楽しめるわけで、同じことを何度も繰り返すことが楽しめるゲームもそんなにはないと思います。
7人(7組)のNPCのストーリー自体がバラエティに富んでいて考えさせられることもあるため、みなさんもぜひプレイするとともに、真のエンディングまではエピソードを繰り返し味わってほしいと思います。

【ウォークスルーインデックス】
#1(CRUISIN’、NOBODY’S SUPPOSED TO BE HERE、SMELLS LIKE TEEN SPIRIT)
#2(THE PURSUIT OF HAPPINESS、BEEP BOOP BEEP、STRESS、ROAD 96)
#3(NO CONCESSION、TAKE YOUR TIME(DO IT RIGHT)、THIEVES IN THE TEMPLE、WORLDS APART)
#4(SHORT CIRCUIT、ABOUT A GIRL、ROAD 96)
#5(THE WILD BOYS、VIDEO KILLED THE RADIO STAR、WALK THE DINOSAUR)
#6(FIRE STARTER、WALKING IN MY SHOES、ROAD 96)
#7(BURNIN’、A VIEW TO A KILL)
#8(BETTER BE GOOD TO ME、INFINITY、LFO、LET’S GET SERIOUS)
#9(MORE THAN WORDS、ROAD 96)
#10(SOME LIKE IT HOT、PRAYING FOR TIME、JUMP AROUND)
#11(I’VE SEEN THAT FACE BEFORE、POLICE ACADEMY、ROAD 96)
#12(TEENAGE DIRTBAG、BEAT IT、BLAME IT ON THE RAIN、SWEET DREAMS)
#13(NOTHING’S GONNA STOP US NOW、ROAD 96)

Road 96 (C) 2022 Koch Media GmbH. Published by Merge Games Ltd, England. DigixArt is a division of Koch Media. Developed by DigixArt . Road 96, DigixArt and their respective logos are trademarks of Koch Media GmbH. Made with Unity. (C) 2022 Unity Technologies. “Unity”, Unity logos, and other Unity trademarks are trademarks or registered trademarks of Unity Technologies or its affiliates in the U.S. and elsewhere. All other trademarks, logos and copyrights are property of their respective owners. All rights reserved.

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