「Lost in Random」は、ゴシックなおとぎ話に着想を得たアクションアドベンチャーゲームです。
ランダムという名の王国は邪悪な女王に支配されており、6つの影の領域は呪われた黒いダイスが人々の運命を握っています。
プレイヤーは、一文無しの少女・グースーとなって姉のキースーを救うため、相棒のダイシーとともにイチかバチかの旅に出ます。
美しくも呪われた不思議の国に足を踏み入れ、それぞれが独特で狂気じみたルールで動く6つの領域を冒険するのです。
その中で、ランダムの一風変わった住人たちを助け、カードを集め、激しいダイスバトルを繰り広げ、邪悪な女王から姉を救い出します。
そして、ダイシーとともに混沌としたランダムの謎を解き、現代社会を反映したおとぎ話を紐解きます。
開発はZoinkで、スウェーデン第2の都市・ヨーテボリで2001年にクラウス・リンゲレッドが設立。Zoinkは、2017年にImage & FormとともにThunderfulグループを結成し、2020年にThunderful Developmentに統合されています。
同社は、その歴史の中で数多くのゲームを開発しており、「BRIDGE CONSTRUCTOR」シリーズ、「STEAMWORLD」シリーズをはじめ、「Fe」、「HARVEST MOON: One World」、「THE GUNK」、「Cursed to Golf」などがあり、その多くがアニメ調の柔らかいグラフィックで描かれています。
本作のクリエイティブディレクターであるオロフ・レッドマルムによると、本作はダークフェアリーテイルとストップモーションアニメーションに敬意を払って開発されたそうです。
余談になりますが、彼は私のTwitterの本作のツイートに対して何度か「いいね」を付けてくれていて、日本語交じりのツイートもチェックして「いいね」を付けてくれているのは本当にありがたいことです。
それはさておき、開発チームは、アメリカのストップモーションアニメーションスタジオのライカ作品、ティム・バートン監督の映画、小説「Grimmus Fairy Tales」、ゲーム「Oddworld」シリーズからもインスピレーションを得ています。
作風も、ティム・バートンの映画「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」、カートゥーンネットワークのテレビアニメ「オーバー・ザ・カーテンウォール」、オーストラリアの映像作家・ショーン・タン(「ロスト・シング」など)などに触発されています。
こうしたバックボーンを考え合わせると、本作が持つ独特の雰囲気やグラフィックなども分かってくるのではないでしょうか。
ストーリーはライアン・ノースが書き下ろしていますが、彼はアイズナー賞を受賞した「アドベンチャータイム」とマーベルコミックスの「絶対無敵スクイレルガール: けものがフレンド」の作者です。
ランダム王国では、すべての子供は12歳になると黒いダイスによって運命が決定づけられます。
ワンクロフトで平和に暮らす少女・グースーの姉のキースーも、邪悪な女王によって連れ去られてしまいます。
プレイヤーはグースーとなり、姉のキースーを救うため、美しくも呪われた不思議の国に足を踏み入れ、それぞれが独特で狂気じみたルールで動く6つの領域を冒険する旅に出るというわけです。
その6つの領域というのが、ワンクロフト、ツータウン、スリーダム、フォーベルグ、ファイブトロポリス、シクストピアで、グースーはそれぞれの領域で問題を解決しながら、次の領域へと進み、姉のキースーが捕らわれているシクストピアをめざします。
と、ここまで書いてくれば想像できるかと思いますが、姉妹の名前はグースー(偶数)とキースー(奇数)、6つの領域はサイコロの6つの目と同じく1から6です。
本作では、グースーの相棒にダイシーがすぐになったり、戦闘をはじめとした多くの局面でサイコロが鍵を握っているように、すべてがダイスに関連付けられているのです。
そして、ワンクロフト、ツータウン、スリーダム、フォーベルグ、ファイブトロポリス、シクストピア、それぞれが幻想的で美しい街でありながら、それぞれが独自のシステムで動いているのも面白いところです。
それぞれの街に暮らす住人たちもユニークな存在であり、彼らとの会話もウィットに富んだものであったり、彼ら独自のルールがあったり、街独自のルールに縛られていたりして興味深いものです。
プレイヤーは、そんな彼らと積極的に言葉を交わすことで、事態が進展したり、彼らからの依頼を受けたりすることができます。
事態が進展するものはメインクエストであり、彼らからの依頼を受けるものはサイドクエストであり、サイドクエストはたいていは受けなくても先に進むことができます。
しかし、サイドクエストを受けることで、グースーが得るものが大きくなるとともに、物語により深くかかわることもできます。
本作のジャンルはアクションアドベンチャーになりますが、このあたりはRPGに似ていますし、RPG慣れした日本のプレイヤーならプレイしやすいことでしょう。
RPGといえば戦闘がつきものですが、本作の戦闘は独特なものになります。本作の戦闘は、通常はアリーナらしきところに入るとアリーナが閉ざされ、敵ロボットとの戦いが始まります。
グースーは、戦闘開始時は攻撃手段を持っておらず、敵ロボットの攻撃を走り回って避ける、敵ロボットの体から生えてくるクリスタルをスリングショットで撃ち落とす、のいずれかしか行えません。
地面に落ちたクリスタルを背中に背負ったダイシーの中に回収していき、それが一定量になればフルハンド状態になり、ダイスを触れるようになります。
ダイスを振ると、これまでに集まったカードを数字の範囲内で選び、それによって初めて攻撃が行えるようになります。
カードには、攻撃、防御、チート、回復といった種類があり、それぞれに特徴を持ったカードが用意されているので、臨機応変にカードを選んで攻防を繰り広げる必要があります。
もっとも、プレイヤーがカードを選んでいる際には、敵は終盤に現れるクイーンの影を除いて静止しているため、焦ることなくゆっくりと選ぶことができます。
カードが何枚選べるか、どんなカードがあるかは完全にランダムになっており、そのあたりもダイスが鍵を握るゲームらしいところです。
このあたりも、カードバトル慣れした日本のプレイヤーならプレイしやすいことでしょう。
そう考えると、絵柄はとっつきにくいかもしれませんが、ゲームシステム自体はけっこう日本人向きかもしれません。
敵ロボットのバリエーションは徐々に増えてくるものの、小型ロボット、小型飛行ロボット、通常ロボット、電撃ロボット、砲弾ロボット、ナイトロボット、巨大ロボットが主なもので、バリエーション自体はあまり多くありません。
そこに、アリーナによって中ボスが加わってくることがあるだけで、それぞれのロボットに対する対処法をマスターしてしまえば、地形をいかにうまく活用するか、クリスタルをより多く落とさせるか、攻めるか逃げるかの瞬時の判断、にかかってきます。
ただし、戦闘時のグースーの動きはあまり良いとは言えず、走ったり、ダッシュ移動したりはできるものの、振り返るような動きの時に視点が定まらずにぶれてしまうため、長期戦を繰り返していると酔いそうになることがあります。このあたりは、もう少しブラッシュアップさせてほしかったところです。
また、視点とも少し関係してくるのですが、本作は街によって立体的だったり入り組んだ構造になっていたりするのですが、せっかく用意されているマップが分かりづらいのが難点です。
マップは、ズームはできるのですが、プレイヤーがどこにいるのかは、街のエリア全体で表されるだけです。そのエリアのどこにいてどちらを向いているのかということは分かりません。
そのため、マップと照らし合わせてエリアを確認し、エリア内のランドマークをマップで見つけ、それを頼りに移動してみるといった面倒なことでしか、自分がどこにいるかを把握できないのです。
せっかくマップが用意されているのですから、プレイヤーがマップ内のどこにいてどちらを向いているかは明示してほしかったところです。
グラフィックは、4K、60FPS、HDRなどには対応していませんが、ダークフェアリーテイルとストップモーションアニメーションに敬意を払ったり、前述した作品群にインスピレーションを得たりして開発されているだけに、十分に幻想的で美しいものになっています。
本作では、ワンクロフト、ツータウン、スリーダム、フォーベルグ、ファイブトロポリス、シクストピアと順に旅していくわけですが、新たな街に入るたびに美しい風景に目を奪われます。
登場人物の奇抜さや美しさも、同様のことが言え、物語全体が作り出す幻想的な美しさや狂気などに貢献しています。キャラクターのモーションも申し分ありません。
サウンドは、英語音声、日本語字幕で、キャラクターボイスはフルボイスになっており、それぞれのボイスアクティングが素晴らしく、ゲームが持つ雰囲気を作り出すのに貢献しています。
実は、クリエイティブディレクターであるオロフ・レッドマルムも、ツータウンの市長の声などを担当しているのですが、違和感なく見事に役を演じきっています。
音楽は、イギリスのコンポーザーであるBlake Robinson Synthetic Orchestraが担当しており、ゲームをより奥深いものにする壮大かつ美しい音楽の数々が奏でられます。
本作は、ワンクロフト、ツータウン、スリーダム、フォーベルグ、ファイブトロポリス、シクストピアを順に冒険していくわけですが、それぞれの街の中ではある程度は行き来できるものの、いったん次の領域に入ってしまうと戻ることができません。
ワンクロフトでやり残したことがあった場合、ツータウンに入ってから気がついても戻ることができないのです。
本作では、サイドクエストを受けたり、「絵本のページ」を取ったり、といったゲームの進行には直接関係ない目的もあるのですが、それらはやり損ねたり取り損ねたりすることが往々にしてあるのに、やったり取ったりするために戻ることはできないのです。
ファンタジックなゲームという性格上、別の領域にワープできる場所を設けることは問題とはならないはずで、そうした配慮もしておいてほしかったところです。
セーブシステムが、セーブデータは3個まで作れてもセーブデータ間でコピーはできないというものになっているため、そうした配慮はより一層のことしておくべきでした。
このように、領域間では行き来できない、セーブシステムが実質的に複数作れない、マップ内で迷うことがある、などといった問題点はあります。
それでも、ゲーム自体は以下のような素晴らしい、ある意味、日本人向けとも思える各種要素で構成されています。
ティム・バートンの映画「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」、小説「Grimmus Fairy Tales」などに触発されてインスピレーションを得ていて、ダークフェアリーテイルな雰囲気があること。
日本人がなじみのあるRPG風のメインクエストとサイドクエストの構成と、戦闘内にカードバトル要素を組み込んでいること。
ストーリーは、アクションアドベンチャーながらも、ファンタジックRPG的な部分も存分に盛り込ませていること。
それだけに、ぜひともプレイしてみてほしいと思います。この不思議な世界観とグラフィックに魅了されたら、グースーとダイシーとともに、ランダム王国の旅を先に続けたいという意欲がふつふつと湧いてくるはずです。
【ウォークスルーインデックス】
#1(ワンクロフト1(ダイスの日、ベッドタイム…1))
#2(ワンクロフト2(ベッドタイム…2)、見知らぬ土地で1))
#3(見知らぬ土地で2、ツータウン1(二都物語1))
#4(ツータウン2(二都物語2))
#5(ツータウン3(二都物語3、物語の両義性1、死の代償))
#6(ツータウン4(二都物語4、ウヨシチのポエム、現行犯で捕まえる1))
#7(ツータウン5(二都物語5))
#8(ツータウン6(二都物語6、現行犯で捕まえる2))
#9(ツータウン7(物語の両義性2、二都物語7)、スリーダム1(3人寄れば・・・1))
#10(スリーダム2(3人寄れば・・・2、三つ巴1、求ム、シュムー1))
#11(スリーダム3(3人寄れば・・・3、求ム、シュムー2、グレタに指輪を渡す、公爵の講釈))
#12(スリーダム4(3人寄れば・・・4))
#13(スリーダム5(三つ巴2、バロネスの鼻をあかせ、姉妹の心の内1、アーサー捜索隊))
#14(スリーダム6(戦士の道、姉妹の心の内2、三つ巴3、無償の愛、求ム、シュムー3、3人寄れば・・・5))
#15(フォーベルグ1(ランダムで彷徨う1))
#16(フォーベルグ2(ランダムで彷徨う2、ゴーストストーリー1))
#17(フォーベルグ3(郷に入っては郷に従え、五分五分、青い糸、ゴーストストーリー2))
#18(フォーベルグ4(紫の糸))
#19(フォーベルグ5(赤い糸、お尋ね者を尋ねて、ランダムで彷徨う3))
#20(フォーベルグ6(ランダムで彷徨う4))
#21(ファイブトロポリス1(五次元チェス1、ダイス・トゥミートユー、続きは歴史が語る))
#22(ファイブトロポリス2(五次元チェス2、彷徨う者たち1))
#23(ファイブトロポリス3(五次元チェス3、彷徨う者たち2))
#24(ファイブトロポリス4(五次元チェス4))
#25(ファイブトロポリス5(五次元チェス5)、シクストピア1(めでたしめでたし1))
#26(シクストピア2(めでたしめでたし2))
#27(シクストピア3(めでたしめでたし3))
#28(シクストピア4(めでたしめでたし4、ランダムの呪い1))
#29(シクストピア5(ランダムの呪い2))
(C) 2022 Thunderful Development AB. ALL RIGHTS RESERVED. 「Lost in Random」はThunderful Development ABの商標です。
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