「SCORN」レビュー&ウォークスルーインデックス

「SCORN」は、H・R・ギーガーとズジスワフ・ベクシンスキーの作品に触発されたホラーアドベンチャーゲームです。
本作は「世界に突然投げ出されたら」をコンセプトに開発されており、物語の舞台は奇妙なクリーチャーと機械、肉、骨から成る生きたテクノオーガニックストラクチャーで満たされた悪夢のようなエイリアンの惑星です。
そこは複雑かつ相互に繋がった様々なエリアが存在して迷路のようになっており、数多くの部屋や隠し通路を見つけることができます。各エリアは、それぞれのテーマ(ストーリー)、パズル、キャラクターが存在し、密接な世界観を形成しています。
ストーリーはすべてゲーム内で語られ、プレイヤーはキャラクターの体と動きを感じることでより良い没入感を味わうことができます。
プレイヤーは、戦闘と回避を行うタイミング、行動が世界に及ぼす影響を考えなくてはなりません。さらに先へ進むには様々なプレイスタイルが要求されるのです。

本作を開発するEbb Softwareは、2013年に設立されたセルビアのゲーム開発スタジオです。
ゲーム自体は、2014年11月12日に発表され、プレアルファの映像を映したトレーラーを公開。同年12月にキックスターターのキャンペーンが行われたものの失敗に終わります。
それでも、2部作のリリース予定で開発を続け、2015年1月に投資家から個人出資を受け、同年2月に本格的な制作を開始します。
ゲームは2部構成でリリースされる予定で、第1部のみ「Dasein」という名称がアナウンスされました。
これは、ドイツ語の方言で「そこにいる」という意味になるとともに、ドイツの哲学者であるマルティン・ハイデッガーの哲学では「存在の問い」とされています。
Ebb Softwareは2017年に2度目のキックスターターを開始し、同年9月に目標の15万ユーロを達成します。
2018年夏には、制作チームは、具体的な発売日こそ発表しないものの、部分的ではなく全体として発売することを発表します。
2020年5月7日、本作はPCと「Xbox Series X|S」で時限コンソール独占販売され、4Kと60FPSで動作することも合わせて発表されました。
また、開発チームは、ゲームの劣化版に開発時間を費やしたくなかったため、前世代のコンソールではリリースしないことも合わせて発表しています。

そんな本作は、開発前のスクリーンショットから、おどろおどろしいグロテスクなグラフィックで話題となり、それは「THE MEDIUM」の発売前と同様の期待感を抱かせるものでした。
そうしたグラフィックとは裏腹に、「SCORN」をカタカナ読みすると「スコーン」となり、日本ではおなじみの湖池屋のお菓子「スコーン」とかぶるものがあり、日本のXboxユーザーに親しみやすさを感じさせもしていました。
それらの様々な感情とともに本作をプレイし始めると、プレイヤーは想像通りのおどろおどろしくグロテスクな世界に放り込まれ、まずはひと安心します。
ところが、目の前に見えるドアが開くことはなく、やむやく左の通路を進んでいくと、アドベンチャーゲームではおなじみとなった手順を踏んで道を切り開いていくことになります。
開発者は、「世界に投げ出される」というアイデアを軸にゲームをデザインしたと断言しており、ゲームの舞台についてはほとんど説明されていません。また、不穏な環境はキャラクターそのものでありたいとも説明しています。
つまり、ここからは、プレイヤーはゲームの舞台や解法については何ら語られることなく、自らの勘と想像力と判断力で道を切り開いていかなければならないというわけです。

そして、世界観とグラフィックに圧倒されながら迷路のような道を歩いていき、これもアドベンチャーゲームではおなじみのエレベーターに乗ると、今度は巨大な「15ゲーム」のようなパズルが目の前に現れます。
ここでプレイヤーは、かの有名なパズルゲームである「MYST」を思い出すことになるのです。本作がドンパチのFPSだと思っていた人にとっては肩透かしを食らった瞬間でもあります。
もっとも、発売前のおどろおどろしいグロテスクなグラフィックで「THE MEDIUM」を連想した人であれば、これは想定範囲内のことであったかもしれません。
私も、アドベンチャーゲームは大好物であり、パズルゲームにもチャレンジ精神をかきたてられるため、たいていの場合は跳ね返されもするのですが、このゲームの文法はすんなりと受け入れることができました。
巨大な「15ゲーム」のようなパズルゲームも楽しめましたが、このACT Iで実績としては最初で最後の分岐があり、いきなり2度やり直すことになります。
それでも、アドベンチャーゲームにありがちな収集系の実績はなく、残る実績はストーリーを進めていけば自動的に解除されるため、そうした意味では潔く世界観に集中することができるゲームだとも言えます。

ただ、ACT Iと書きましたが、本作ではプレイ中にACT IからACT IIに入ったということは一切知らされず、エリアが大きく変わったり短いカットシーンがあったりで判断するか、セーブデータで推察するしかありません。
セーブは、最近のゲームではデフォルトになりつつあるオートセーブのみとなっており、やめどきが分かりにくいのもつらいところです。このあたりは、ユーザービリティにも配慮してほしかったところです。
ポーズをかければコントローラーの操作を見ることができ、走ったり、回復したり、といったことも行えるというのが分かりますが、意外と気づかない人もいるため、チュートリアルはあっても良かったかもしれません。
それでも、最小限の操作説明は右下に表示され、インタラクトできるアイテムも光るため、ゲーム慣れしている人なら困るというほどでもありません。
パズルの難易度もそれほど高いというわけではないのですが、それよりも問題なのは迷路の方で、これは私も迷うことが珍しくはなかったです。
「MYST」は迷路もパズルも難易度が高く、本作はそれに比べるとパズルの難易度は低くなっているだけに、迷路ももう少し易しくても良かったかなという気はします。

グラフィックは、ACT IからACT IVまでは延々と同じようなおどろおどろしくグロテスクな世界が続きますが、8年に及ぶ開発期間を経ながらも4K、60FPSのアップツーデートなグラフィック水準を実現できたのは素晴らしいことです。
このACT間の世界観とグラフィックは見事なまでに高水準で統一されており、こうしたホラー系のグラフィックが好きな人にとっては格好の世界となることでしょう。
クリーチャーも、世界観を損ねることのないデザインが施されており、動きも違和感を覚えることがないほどで、この世界にどっぷりと浸ることができます。
冒頭でH・R・ギーガーとズジスワフ・ベクシンスキーの作品に触発されていると書きましたが、彼らのことを知っている人はもちろんのこと、知らない人でも彼らの作品を見れば納得いくのではないかと思います。
ACT Vでは世界観が少し異なってきますが、プレイヤーを抑圧された世界から解放するとともに、その壮大かつ荘厳な美しさに息を呑むこともでき、新たな感動を生み出してくれるはずです。
人によってはACT IVまでの世界観からの変貌ぶりに違和感を覚えることもあるかもしれませんが、世界としてはうまく収束されているのではないかと思います。

また、本作をホラーアドベンチャーFPS的にとらえていた人にとっても、ACT IIIあたりからの展開は少しは留飲を下げるものがあるのではないでしょうか。
ACT IIIからACT IVにかけてのクリーチャーとの戦闘は避けることができるものも多く、必ずしも戦わなければならないわけではありませんが、一部戦闘不可避なクリーチャーはいます。そこは、腕自慢の腕の見せどころになります。
本作は、クリーチャーにもパズル的な要素が盛り込まれており、クリーチャーは一定ルートを周回しているだけのため、それを読み切れば戦闘を避けることができます。
それでも、腕自慢の人がうまく立ち回って貧弱な武器を駆使してクリーチャーを倒すという解決法を取ることもできなくはありません。
ACT IVになると武器も強力になり、戦闘不可避なクリーチャーも増えてくるため、戦わずに済ませるか、いかに効率良く倒すかという判断とテクニックも重要になってきます。
ACT Vのボス戦は戦い方もかなり練り込む必要があり、そこはFPSらしさも味わえるのではないかと思います。

本作は、ACT IからACT IVまでは、統一されたおどろおどろしくグロテスクな世界で、迷路をさまよい、パズルを解き、道を切り開いていきます。
ACT Vでは、抑圧された世界から解放され、壮大かつ荘厳な美しさに息を呑み、新たな感動に浸ることができ、ボス戦も楽しめ(苦しめ?)ます。
そして、神々しいと言えるようなラストへと突入していきます。このラストですらプレイヤーはそれに身をゆだねるしかありません。
このラストシーンをどう解釈するかはプレイヤー次第なのですが、あれこれと考察して理解するよりも、それをただ受け入れるべきなのかもしれません。
ブルース・リーの名言に「考えるな! 感じろ」(Don’t think! Feel.)というものがありますが、本作がまさにそうで世界観に身をゆだねながらプレイしてほしいと思います。
そうは言っても、迷路だのパズルだの戦闘だのはいろいろと考えなければいけないのですが、世界観に関しては「考えるな! 感じろ」ということなのです。
それでも、少しでも理解を深めたいということなら、H・R・ギーガーとズジスワフ・ベクシンスキーの世界を紐解いてみるのも良さそうです。
本作が両者の作品に触発されたホラーアドベンチャーゲームだということを実感する手助けになるはずです。

【ウォークスルーインデックス】
#1(ACT I – I)実績「001」&「002」
#2(ACT I – II)
#3(ACT II – I、II – II)
#4(ACT III 1)
#5(ACT III 2)
#6(ACT IV)
#7(ACT V)

Scorn (C)2022 Ebb Software d.o.o. Developed by Ebb Software d.o.o., a member of the Kepler Interactive group. Published by Kepler Interactive. “Scorn”, “Ebb” and the Ebb logo are all trademarks of Ebb Software GmbH. All rights reserved.

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