「HOA」レビュー、世界・音楽・映像の柔らかさに癒されるも終盤手ごわい2D横スクロールパズルアクションゲーム

「HOA」は、息をのむような手描きのアート、生で収録された美しい音楽、そして、平和でリラックスした雰囲気が特徴の2D横スクロールパズルアクションゲームです。
プレイヤーは、主人公のホアを操作して、息を呑むような環境の中で、すべてが始まった場所に戻る旅をしながら、自然の魔法と想像力を体験します。
本作を開発するSkrollcat Studioは、シンガポールを拠点とするインディービデオゲーム開発スタジオで、本作がデビュー作になります。
もっとも、このレビューを書いている時点では次回作の予定はなく、同社唯一の作品ということになります。
それでも、本作のリリース後、数々の賞を受賞しており、唯一の作品が高く評価されているということが分かります。

物語は、ホアがヤシの葉で作られたカヌーで故郷の砂浜に上陸するところから始まります。柔らかく美しい青空が穏やかな水面に映り込む中、バックには心地良いピアノの音色が流れています。
プレイヤーは物語の冒頭から作品が持つやさしさに包まれており、早かれ遅かれ、頭の中では松任谷由実の「やさしさに包まれたなら」が流れていることでしょう。
彼女がカヌーから砂浜に下り立つと、画面中央に「HOA」のタイトルが浮き上がり、「A」には蝶が止まってから飛び去ります。これは、蝶が本作のキーであることを暗示しています。
また、よく見ると、「O」の中はホアのシルエットになっており、ゲーム開始時には気がつかないようなことが、後からそうだったのかと分かるようになります。
旅が始まると、Xボタンでジャンプできるということを教えてくれるのですが、その先で最初のクリーチャーであるカタツムリに出会います。
彼女のこれからの旅では、世界・音楽・映像のすべてが柔らかく癒される大自然の中、様々な昆虫のクリーチャーに出会い、彼らの助けを借りながらマップ内を探索して切り拓いていくことになるというわけです。

マップは、全部で8つあり、それらはクリアするごとにメインメニューからチャプターセレクトでプレイし直すことができます。
そのマップの大半が世界・音楽・映像のすべてが柔らかく癒される大自然の中になっています。
マップの構成も、枝や葉を使って移動するものが多いものの、蝶を5匹集めるごとに増えていくアクションにより、それほど苦労することなく目標地点に到達できるようになります。
マップデザインも秀逸で、新たに習得したアクションを利用して行き来できるようになっており、ストレスもさほど感じません。
クリーチャーも、大半が見たことのある昆虫なのですが、かわいらしくデフォルメされているため、昆虫嫌いの人であっても抵抗感なく物語を進めることができるでしょう。
アクションゲームらしく、クリーチャーの中には敵となるものもいるのですが、唯一昆虫でないロボットには蹴飛ばされこそすれ倒されることはなく、枝や葉の上から落下してもゲームオーバーになるということもありません。
本作にはヘルスやライフ、ゲームオーバーという概念はなく、敵クリーチャーには少し押し戻されるだけ、落下しても落ちたところからやり直すだけなのです。そのあたりは、2D横スクロールアクションゲームにありがちなストレスは存在しないのです。

先ほど少し触れましたが、物語の目的はマップごとに蝶5匹を集めて新たなスキルを習得し、マップ内を隈なく行けるようにすることです。
蝶5匹をすべて集めた段階で、マップの最終目的地点に行き、そのマップを完全に復活させることが目標になります。
それが終わったら、指示されるまま次のマップに行き、再び、同じことを繰り返すことになります。
もっとも、中盤までに訪れるマップは世界・音楽・映像の柔らかさに癒されるもので、新たに習得したスキルがうまく活用できるように構成されているため、飽きたり難しく感じたりすることもありません。
マップもYボタンを押せば見られるようになっており、マップ内で迷うということもほとんどないでしょう。
マップには、蝶5匹がいる場所が明示されており、最終目的地点も表示されるようになります。
マップ自体はブロック分けされているだけで細かくは描かれていないのですが、蝶と最終目的地点の上下左右ははっきりと分かるようになっています。
そのため、どこを通ってそこに行けばいいかということは推察できるようになっており、マップ自体も複雑ではないため迷うことがほとんどないのです。

様相が明らかに異なってくるのが、ファクトリーエリアに入ってからです。ここでは、これまでの世界・音楽・映像の柔らかさはなく、無機質と言ってもいい機械を相手に色に乏しいダークな世界で奮闘することになります。
スキルを使ったり、ロボットを利用したりして移動するのはもちろんのこと、パズル要素も色濃くなってきます。
もっとも、移動もパズル要素も、2D横スクロールパズルアクションゲームとしては簡単な部類だと言って良く、落下する機会こそ増えるものの、手こずるというほどでもないでしょう。
アクションシーンの連続かなと思って身構えるところもカットシーンになっていたりして、パズルが連続した後だけに少しほっとできます。
ゲームの世界観的には、ファクトリーエリアはなくても良かったのかなと思うのですが、アンダーウォーターエリアを経てのものであり、唐突感があるというほどでもありませんでした。

タイトルで「終盤手ごわい」と書いたのが、最後のマップである白黒のリバースコントロールセクションです。
これは、ファクトリーエリアとも一線を画するもので、完全に白と黒だけで構成された世界で、背景すら大胆にカットされています。
その白黒の世界の中を移動していくのですが、画面の上下が対になっているところから始まり、アクション要素の連続となっており、完全に別ゲーと言ってもいいほどです。
極めつけはリバースコントロールで、向きが逆であろうとラジコン操作のようにキャラクターを主体に移動させなければなりません。
このマップは、左から右、上から下、右から左、下から上、といった移動が斜め移動を経て連続します。
それらをラジコン操作で移動しなければなりません。しかも、スキルを駆使して移動したり、オブジェクトを使ったり、敵ロボットを利用してジャンプしたりと、工夫と操作スキルが要求されるのです。
これにはトライアル・アンド・エラーが必要で辟易させられることもあります。それでも、そんなに長いマップではないため、ゴールまでたどり着くことはできるでしょう。
その後は、あのすっかりなじんだ世界に戻ることになるため、その対比にほっとさせられます。そうは言っても、ファクトリーエリア以上に必要なマップだったのかなという疑念は残ります。

このように本作は、基本的には世界・音楽・映像の柔らかさに癒される2D横スクロールパズルアクションゲームに仕上がっています。
本作のプレイ時間は3時間ほどとコンパクトにまとまってはいるのですが、プレイヤーはその大半の時間でやさしさに包まれることになります。
そして、終盤のファクトリーエリアではパズルにちょっぴり頭を悩ませ、最後のリバースコントロールセクションでは大胆な変貌に驚かされることでしょう。
それでも、プレイ後は良質なゲームをプレイしたという思いを抱くことになるはずで、これに費やした3時間を無駄な時間だったと感じることはないはずです。ぜひ、本作の世界観に触れてほしいと思います。

最後に、取り損ねるおそれのある実績についてまとめておきます。
「Trampoline Aficionado」は、バウンシーラーヴァ(幼虫)の背中で10回バウンドします。
「Do I Look Like a Ball to You?」は、ロボットに10回蹴られます。
「Puppet Master」は、ファクトリーエリアでロボットチェーンのポジションを10回変更します。あのやじろべいのような大きなロボットです。
「The Untouchable」は、ロボットに蹴られることなくゲームを終了します。「Do I Look Like a Ball to You?」とは相反する実績です。
チャプターセレクトでやり直す必要がある実績ですがゲーマースコアは0で、この実績を解除しなくても1000/1000にはなります。面倒な実績なので解除するかどうかはお好み次第でしょうか。

(C) Copyright 2021 Skrollcat Studio

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