「DORDOGNE」レビュー&ウォークスルーインデックス

「DORDOGNE」(ドルドーニュ)は、32歳の女性ミミとしてプレイするナラティブアドベンチャーゲームです。
最近亡くなった彼女の祖母は、ミミがフランス・ドルドーニュ地方で過ごした幼少期の夏を記念して、人生を最大限に楽しむようにと手紙とパズルを残していきます。
本作では、現在と過去の両方が舞台になります。現在のタイムラインでは32歳のミミが祖母の家の部屋を探検し、過去のタイムラインでは12歳のミミがドルドーニュを探検して幼い頃の貴重な思い出や亡くなった祖母との思い出を探ります。
現在と過去が交錯する中で、大人の選択と子供の頃の穏やかな記憶をすり合わせ、失われた家族の秘密を解き明かしていきます。
ドルドーニュの風景は、壮麗な手書きの水彩で描かれた千変万化の夏の色彩に彩られており、冒険の中で風景、香り、音、感覚といった思い出を呼び覚ましてくれるでしょう。
これらの鮮明な思い出たちは、プレイヤーだけのミミの家族の過去の記憶として、また、旅のノスタルジックで感動的な思い出として、日記の中に記録されます。

本作を開発するUN JE NE SAIS QUOIは、オーディオビジュアル、ビデオゲーム、出版、広告に携わるアーティスティックスイスナイフカンパニーです。
セドリック・バブーシュによって設立されましたが、彼はアニメーションで15年の経験を持つ監督兼アートディレクターで、既成概念にとらわれずにプロジェクトに最も適したメディアと結びつけて開発することを好みます。
アニメーション、イラストレーション、ビデオゲームなど、あらゆるものが好きで、最高のアーティスト、開発者、プロデューサーを集め、彼らが関わるプロジェクトを成功に導いています。
本作を共同開発するUMANIMATIONは、才能あるストーリーテラー、アーティスト、デザイナーのチームとともに、様々なテクノロジーやプラットフォーム(テレビシリーズ、ショートフィルム、ソーシャルメディアコンテンツ、ビデオゲーム、仮想現実、拡張現実、ノンリニアフィクションなど)を活用したトランスメディアユニバースを制作し、次世代のエンターテインメントコンテンツを定義することを目的としています。

セドリック・バブーシュは、本作でもアートディレクターを務めていますが、彼は幼少期に夏の休暇の多くをフランス南西部で過ごしています。
彼は、そうした経験を持たないチームメンバーが同じ感覚が得られるように、彼らをドルドーニュへと誘い、有名な場所を複数訪ねるとともに、市場や川など名所以外の場所でも時間を過ごし、実際の風景を前にスケッチしています。
その結果、当初の計画にはなかった、サルラ、ラ・ロック・ガジャック、カステルノー・ラ・シャペル、ドルドーニュ川、といった実在する地域がゲームにも登場することになったのです。
サウンドも、自然音源とフランスのバンドSupernaiveの美しいアンビエント曲が使われており、手描きの水彩とともにプレイヤーをゲームの世界へと引き込むことに成功しています。
プレイヤーがスクリーンショットやトレーラーを目にしただけで、このゲームをプレイしたいという思いがこみ上げてくるのも、こうした背景があるからなのでしょう。

物語は、32歳のミミがフランスの都市部で「シトロエン2CV」に乗り、リアシートで仮眠をとっているところから始まります。
彼女は、仕事を失い、ドルドーニュで暮らす祖母も亡くしてしまいます。祖母は思い出の箱を残しており、彼女は失意の中、思い出を探す旅に出ます。
彼女が都会の喧騒から逃れて山道を走らせると、クルマは昔懐かしいドルドーニュの祖母の家に到着します。
彼女が12歳の夏を過ごしたこの家も、今は主を失って変わらぬ美しさを覗かせながらも、ひっそりとたたずんでいます。
ここからは、32歳のミミがストーリーテラーとなりながらも、プレイヤーがその物語を紐解いていくことになります。
そして、廊下でろうそくとペンの簡単なパズルを解くと、物語は12歳のミミに切り替わります。ここから、本作の醍醐味である32歳のミミの探検と12歳のミミの冒険の物語が始まるのです。

ここで、クルマ好きならずとも気がつくと思うのですが、ミミの両親がノーラの家に12歳のミミを預けに来た際に乗っていたクルマは「シトロエン2CV」です。
32歳のミミがここまでやってきたクルマも「シトロエン2CV」で、型と色が全く同じであることから、32歳のミミは車歴20年を超える「シトロエン2CV」を大事に乗ってきたということがうかがえます。
この「シトロエン2CV」の車歴がもし22年だったら、32歳のミミと12歳のミミをつなぐのが22歳の「シトロエン2CV」ということになりますが、そこまでこだわった設定であったのなら、それはそれでよく練られているなと感じます。
それはともかく、32歳のミミは、そうしたおばあちゃんとの思い出も大切にして「シトロエン2CV」を大切に乗ってきたのかなと想像を巡らせてしまいます。
もちろん、「シトロエン2CV」自体がフランスを代表するような名車であり、その姿がドルドーニュの景色に溶け込むという理由もあったのかもしれませんし、スタッフの誰かの愛車なのかもしれません。
クルマ1台でここまで考えさせられるのも、本作が持つ温かさがあるからこそでしょうか。

ドルドーニュでの物語は、ドルドーニュの小高い丘の上に立つ、今は亡き祖母が過ごした家を起点に繰り広げられます。
そんな家は、小高い丘の上に立っていることもあって斜面になった前庭を持ち、その前庭にはブランコやリクライニングチェアが置かれ、奥にはひっそりとした池もあり、夏休みに訪れるのにも最適です。
また、家の横にある庭には家庭菜園やテーブル、作業小屋もあり、奥には謎めいた洞窟もあり、祖父母のアクティブな暮らしぶりがしのばれます。
家の中は、1階がリビングとパントリー付きのダイニングキッチンとトイレ、2階が祖母の部屋とゲストの部屋と浴室、屋根裏部屋もあります。
このように家自体は大きいというわけではないものの、祖父母が適度な心地良さを感じることができる住まいになっています。
夏休みにドルドーニュを訪れたミミにとっても、祖母とのちょうどいい距離感を得られる家だというわけです。

この家は、丘の上にひっそりと建っており、都市の喧騒は全く感じられないものの、その分、自然には恵まれており、丘の上からの景色を眺めたり、川のせせらぎにふれたりすることもできます。
また、市場は歩いて出かけることが可能な距離にあり、カヤックを直してからは川のほとりでキャンプを楽しんだり、より高台に登ったりすることもできるようになります。
12歳のミミがこれらのことを経験することで、最初は退屈だったドルドーニュ暮らしがどんどん楽しいものになり、祖母との関係も深まっていきます。
ドルドーニュで夏休みを過ごすことで、ミミにとってドルドーニュはなくてはならないものになっていくのです。
プレイヤーも、物語を進めていくことで、手描きの水彩で描かれたこの美しい土地と祖母の家に魅了され、それらになじんでいく自分がいるのを感じることでしょう。
多くの日本人にとってフランスのそれもドルドーニュは縁のない土地のはずですが、それがいつの間にか心安らぐ場所になっていくのです。

物語自体は、ミミと祖母のノーラの2人だけで進んでいき、そこに市場の人たちや、ほとんどメールでやり取りするだけのミミの両親が絡んでくるぐらいなのですが、それでも冒頭から物語にグイグイと引き込まれます。
それは、手描きの水彩で描かれたドルドーニュの美しさもさることながら、アドベンチャーゲームらしく、32歳のミミの探検と12歳のミミの冒険がそこを舞台に展開されるからです。
本作では、物語が進んでいくのに合わせ、「ステッカー」を集め、「新しいテープ」を回収し、言葉を取り、写真を撮り、音を録音する、といった目的も出てきます。
これらは、物語の進行に関係あるものもあれば、物語の進行に関係ないものもあるのですが、大半は実績の解除に関係してくるため、積極的に行っていく必要があります。
また、物語の中盤以降は謎の男の子が登場し、その男の子・ルノーが物語に深くかかわってきます。夏休みらしく緩やかに流れていた時が、それを境に新たな展開を見せるのです。
それはまた、本作の大きな目的のひとつでもある、大人の選択と子供の頃の穏やかな記憶をすり合わせ、失われた家族の秘密を解き明かしていくことにもつながっていきます。

こうした素晴らしい物語は、良質な翻訳と声優の演技にも支えられています。本作は、完全日本語版になっており、メニュー周りから字幕まですべて日本語になっているのですが、ミミやノーラ、ルノーを演じる声優の演技も申し分なく、物語に自然に溶け込むことができます。
サウンドも、自然音源とフランスのバンドSupernaiveの美しいアンビエント曲により、この美しい風景を目からも耳からも堪能することが可能です。
「ステッカー」を集め、「新しいテープ」を回収し、言葉を取り、写真を撮り、音を録音する、といった際の効果音も、この手のアドベンチャーゲームに適したものになっています。
終盤の怒涛とも言える展開も、ストーリーの面白さと美しいグラフィックと心地良いサウンドにより、ゲームを盛り上げるものになっています。
12歳の女の子の夏休みを楽しみつつ、32歳の女性が謎を探り出していくという展開が、絶妙なハーモニーを醸し出しているのです。
普通にプレイするだけなら3時間から4時間で終えられるという小粒な作品ではありますが、プレイヤーはその小粒な中にどっぷりと浸って素晴らしい体験をすることができるでしょう。

本作は、このように小粒ながらも素晴らしい作品に仕上がっているのですが、実績の解除という側面から考えると褒めてばかりもいられません。
本作には、「ステッカー」を集め、「新しいテープ」を回収し、言葉を取り、写真を撮り、音を録音する、といったアドベンチャー要素があるのはここまで書いてきた通りです。
そして、それらは、プレイヤーだけのミミの家族の過去の記憶として、また、旅のノスタルジックで感動的な思い出として、日記の中に記録されていきます。
しかしながら、これらの収集要素を隈なく集めていくのは、実はとても大変なことなのです。
本作には、マニュアルセーブもチャプターセレクトもなく、収集要素を取り損なうと、ニューゲームでプレイし直すしかありません。
ところが、これらの収集要素は見つけにくいものがあるばかりか、あるものを取り損なうと同じチャプター内はもちろんのこと、そのエリアからいったん出てしまうと取りに戻ることができません。
また、言葉に関しては、立ち位置が少し違うだけで取ることができない場合があり、そのまま進んでしまうと戻って取ることができなくなってしまいます。
そのため、何度もニューゲームからやり直すことになってしまい、私の本作のプレイ時間は20時間を超えてしまっています。もちろん、ウォークスルーをしている作品で、途中から何度もやり直しているという理由もあるにはあります。

そこで、本作のDiscordのコミュニティで、この件に関してチャプターセレクトを入れてほしいと要望を出したことがあります。
開発担当者によると、「その点は理解していますし、これはかなり前から想像され、議論されてきた機能です。もし、無理のない範囲で計画できるのであれば、できる限り実現したいと思います。
しかし、今のところ発表できるものはありません。リリース後のパッチも予定していますし、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の修正にも積極的に取り組んでいます」とのことでした。
「ゲームの開発には常に多くのハードルがあり、時間は常に私たちに不利に作用します」という内部事情もあるようで仕方のない部分ではありますし、ユーザーにしっかりと向き合うという姿勢も評価できます。
本作はもちろんのこと次回作でも、このあたり(マニュアルセーブ、チャプターセレクト、アイテムの見つけやすさ・取りやすさ)に配慮したゲーム作りをお願いしたいところです。

【2023年8月16日追記】
2023年8月上旬に待望のチャプターセレクトが追加されました。メニュー画面からプレイ済みのチャプターを自由に選べるほか、各チャプターごとの収集アイテム数も表示されるため、実績解除が容易になっています。

【ウォークスルーインデックス】
#1(チャプター1: 家)
#2(チャプター2: 川)
#3(チャプター3: 市場)
#4(チャプター4: トップ・オブ・ザ・ワールド)
#5(チャプター5: 洞窟)
#6(チャプター6: ピクニック)
#7(チャプター7: クーロブレ、チャプター8: 遺言)

(C) 2021 Dordogne a game developed by Umanimation and published by Focus Home Interactive. Umanimation, Un je ne sais quoi, Focus Entertainment, Focus Home Interactive, and their respective logos are trademarks or registered trademarks. All rights reserved.

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