「西村京太郎トラベルミステリー 悪逆の季節 東京~南紀白浜連続殺人事件」レビュー

【GENRE】
アドベンチャー

【PUB./DEV.】
マーベラスエンターテインメント/マーベラスエンターテインメント

【RELEASE DATE】
2009/6/4

【OUTLINE】
原案・監修に西村京太郎が当たるトラベルミステリーアドベンチャーです。蒸し暑い真夏の夜に起きたボウガン殺人事件をきっかけに、連続殺人事件が発生します。
プレイヤーは、十津川警部となり、東京~南紀白浜を舞台に繰り広げられる事件に、聞き込み、張り込み、尾行などの地道な捜査を続け、時刻表を使ったトリックにも挑み、真犯人を探し出します。

【GAME MODE】
十津川警部となり、捜査一課のメンバーと協力して事件の謎を解明していきます。捜査会議による情報交換や、事件現場や関係者のところに移動して聞き込み捜査を行い、犯人につながる情報を入手していきます。1日の移動回数には限りがあるため、効率良く情報を集めることが重要になってきます。
1日の基本的な流れは、以下の通りです。まず、捜査一課で会議を行い、他の刑事と意見を交わしたり、新情報などを交換し合います。次に、それを基に外に出向いて調査を行います。4回移動するか、もしくは、早めに切り上げ、捜査一課に戻って1日が終わります。

行動アイコン
行動を決めるアイコンです。
移動は、行き先リストに表示された場所から選んで移動します。1日の移動回数は4回までで、0になると捜査一課に戻る以外の移動はできなくなります。
会議は、1日の始まりに1回だけ捜査一課の刑事たちを集めて開けます。会議の前に捜査一課を出てしまうと、その日は会議が開けなくなるので注意します。
聞くは、関係者などから、さまざまな情報を聞き出します。
調べるは、事件現場や被害者宅などで、重要な手がかりを探します。虫メガネカーソルを移動して調べます。
検索は、捜査によって得られた人物や事件のデータを調べることができます。
見せるは、証拠物件の写真などを聞き込みの対象者に見せることができます。
思い出すは、過去に聞き込みで得た証言や遭遇したシーンを思い出します。
システムは、セーブ、ロード、コンフィグなどが行えます。

特殊捜査
犯人像を推理したり、モンタージュ作成や尾行などの特殊捜査をしたりして、事件の核心に迫っていきます。
キーワードの入力は、捜査が進展していくと、捜査一課の課長や他の刑事から犯人像や事件の核心について、推理や判断を求められることがあり、「はい」や「いいえ」などの選択肢を選んだり、文字を入力したりして答えていきます。
時刻表トリックの解明は、「路線を引き返す」、「特急に乗り換える」などの選択肢を選び、トリックを解明していきます。セレクトボタンを押すと、サブメニューが表示され、時刻表と路線図が確認できます。
モンタージュの作成は、目撃者の証言を基に、顔のパーツ(髪、目、鼻、口)を設定していきます。証言通りのモンタージュ写真ができれば次に進み、証言と異なる写真になってしまった場合は、再度、証言を聴くことができます。
張り込みは、双眼鏡で容疑者やその他の住人たちの動きを確認し、何か変わった動きがないかを見張ります。張り込み画面で〇、□ボタンを押すと、1時間、2時間、時間を進めることができます。
尾行は、張り込み中に容疑者が外出すると尾行が始まります。尾行は、容疑者との距離が重要で、近すぎると見つかり、遠すぎると見失います。距離メーターの色を確認しつつ、うまく距離をとった尾行を行います。なお、尾行を5回発見されると1日が経過し、次の日の尾行成功時点からゲームが始まります。

【GRAPHICS】6
本作は、1994年にパック・イン・ビデオから「3DO」で発売された同名タイトルのリメイクです。「3DO」版では、実写になっており、十津川警部に松方弘樹、亀井刑事に荒井注、それ以外にも、石立鉄男、西岡徳馬、喜多嶋舞などといったテレビゲームとしては豪華なキャストを配していました。
私は、「3DO」ユーザーで、実写アドベンチャーゲームは大好きなのですが、残念ながら「3DO」版はプレイしていません。ちなみに、「3DO」の同系実写アドベンチャーゲームとしては、「京都鞍馬山荘殺人事件」、「ムーンクレイドル 異形の花嫁」をプレイしています。
本作では、「3DO」版の実写をそのまま採用するのではなく、「動くシアターアドベンチャー」となっています。
アドベンチャーパートは、3Dキャラクターと2Dアニメ調の背景で構成。キャラクターは、身振り手振りで会話し、待機中も腕を組んだり頭をかいたりと動き続けます。
シアターパートは、モーションキャプチャーを駆使したデモムービーを約20本収録し、物語のハイライトシーンを盛り上げます。キャラクターの動きの中に、事件のヒントが隠れていることもあります。

と書くと、実写がシアターアドベンチャーになって、新たな魅力が生まれたと考えそうですが、実際のところは、単にチープになっただけという印象しか受けません。
キャラクターがシルエットになっているのは、サウンドノベルでよく使われる手法ですが、これ自体が個人的には好きになれません。絵そのものが気持ち悪いし、全く感情移入できないからです。
しかも、本作の場合には、中途半端に3Dキャラクターになり、目鼻立ちや服装まで分かるようになっています。キャラクターがシルエットになっていることの気持ち悪さに、より一層拍車がかかっているというわけです。
しかも、モンタージュの作成では、3Dキャラクターのシルエットではなく、はっきりとした顔を作り出すことができます。これだったら、普通に2Dのアニメキャラクターを作っておくべきだったでしょう。
「PSP」のグラフィック性能なら、2Dのアニメキャラクターが動くぐらいは簡単にできるはずですし、気持ち悪さもなくなり、それぞれのキャラクターに対して感情移入もできます。グラフィックに関しては、失敗作と言えるでしょう。

【SOUND】4
「3DO」版の実写に対し、本作は3Dキャラクターのシルエットなので、当然のことならがらボイスはありません。音楽や効果音も、最小限になっています。
たとえ、2Dのアニメキャラクターになっていたとしても、ゲームの性格上、フルボイスはもちろんのこと、イベントシーンでのボイスも期待できないでしょうが、サウンドに関しては論外のレベルになっています。

【CONTROL】7
基本的な操作は、コマンド選択式のアドベンチャーゲームであるため、特に難しかったり、煩雑だったりするようなことはありません。メッセージの送りや一括表示、ムービーシーンのスキップといった当たり前のことも行えます。
特殊捜査では、張り込みの操作が少しやることが多くなっています。方向キーが張り込む部屋の変更、アナログパッドの右回転がズームイン、アナログパッドの左回転がズームアウト、〇ボタンと□ボタンが時間送り画面の表示、×ボタンと△ボタンが張り込み画面の表示、といったものです。
操作の中で、ここが最も緊張する場面なので、操作性は悪くはないものの、習熟が必要です。
尾行は、方向キーの上左右で進む方向を決め、〇ボタンで物陰に隠れます。こちらは、操作自体はシンプルですが、容疑者との間隔や隠れるタイミングに気を遣います。
本作の操作性は、基本がコマンド選択式のアドベンチャーゲームであるため、良好にならざるを得ないのですが、本作で最も良い点を挙げろと言われれば、操作性を挙げざるを得ないのがつらいところです。

【GAMEPLAY】5
本作は、原案・監修に西村京太郎が当たるトラベルミステリーアドベンチャーです。プレイヤーは、十津川警部となり、東京~南紀白浜を舞台に繰り広げられる事件を、相棒の亀井刑事や、西本刑事、北条刑事、清水刑事などとともに解決していきます。
私自身、西村京太郎のミステリーは大好きで、ここ数年は読んでいないものの、トラベルミステリーシリーズを中心に何十冊も読んでおり、これだけの条件がそろえば、かなり引きの強いタイトルになります。
西村京太郎のトラベルミステリーというと、週刊誌に連載されるケースが多いこともあってか、出だしからテンポが良く、旅情が感じられ、十津川警部と亀井刑事のソフトな人柄と2人の間のやり取りに妙があり、彼らを取り巻く登場人物の機微にも味わいがあります。
本作でも、当然、そうしたことが期待されました。しかしながら、結果を先に言うと、その期待はかなわぬものになってしまいました。それは、本作のグラフィックやシステム、シナリオなど、すべてにおいて、中途半端だったり、あっさりとしているからです。

グラフィックは、前述したように、「3DO」版が実写だったものを、「PSP」版では3Dキャラクターと2Dアニメ調の背景で構成しています。ところが、そのキャラクターが中途半端にシルエットの3Dキャラクターになり、目鼻立ちや服装まで分かるようになっており、それが単に気持ち悪いだけなのです。
システムは、1日の基本的な流れが、捜査一課の会議で他の刑事と意見を交わしたり新情報などを交換し、それを基に外に出向いて4回限定の調査を行い、捜査一課に戻るというものです。
まず、4回限定で必ず捜査一課に戻ってくるというところが杓子定規で、西村京太郎のトラベルミステリーが持つ魅力である旅情が味わえません。本来は、アナログであるべきところなのに、4という数字でくくったことで無味乾燥のデジタルになってしまっています。
また、十津川警部と亀井刑事のソフトな人柄と2人の間のやり取りに妙があり、彼らを取り巻く登場人物の機微にも味わいがあるのですが、本作では、彼らの会話は実にそっけなく、文字数に制約のあるクイズか何かのように感じてしまいます。
本来なら、捜査を逸脱して、十津川警部と亀井刑事の長話になったり、西本刑事や北条刑事、清水刑事のプライベートな話が出てきても良さそうなものですが、本作ではあくまでも事件をシンプルに追うだけになってしまっています。
ストーリーも、1本の長編になってはいるのですが、ひとつの文章が短く、会話もぶつ切れになっており、奥行きが感じられません。これでは、登場人物の心象風景を探るようなことはとてもできません。

特殊捜査に関しては、張り込みと尾行はゲームらしくてまずまず楽しめるのですが、キーワードの入力はもう少し配慮があっても良かったかなと思います。
張り込みは、双眼鏡で容疑者やその他の住人たちの動きを確認し、何か変わった動きがないかを見張るのですが、彼らの動きを追うところが、ズームインやズームアウトもできたりして、なかなかスリリングで楽しめました。
尾行は、張り込み中に容疑者が外出すると始まり、容疑者との距離が近すぎたり遠すぎたりしないようにします。距離メーターの色を確認しつつ、うまく距離をとった尾行を行うのが面白く、こちらもスリリングで楽しめました。
キーワードの入力は、犯人像や事件の核心について、文字を入力したりして答えていくのですが、入力中は捜査によって得られた人物や事件のデータを見ることが一切できません。
つまり、多数の人物や事件のデータは、暗記するか、紙などにメモしておかなければならないのです。これでは、あまりにも不親切というものでしょう。

本作では、ゲームをクリアすると、最後にどこまで事件の核心に迫れたかについて、%で表されます。何もヒントを見ないでプレイすると、たいていのプレイヤーは50%を大きく割り込むことになってしまうでしょう。しかし、これは仕方のないことです。
なぜなら、1日にできる4回の行動は、捜査一課の会議である程度は行くべきところが示されるものの、午前中に行っていなかった人が午後に行ったらいたとか、ある順番に回ると人物や事件に遭遇するといった予測不可能なことが起こりすぎるからです。
本作がアドベンチャーゲームである以上、ある程度はプレイヤーの読みや予測が働くようなヒントや伏線をあらかじめ匂わせておくべきでした。これでは、行き当たりばったりすぎます。
また、終盤では、容疑者や参考人などに口を割らせる場面があるのですが、これも質問の内容や手順にヒントや伏線がなく、運が良ければ聞き出せるといった具合です。
このように、西村京太郎のトラベルミステリーアドベンチャーとしては、いささか残念な仕上がりで、「3DO」版の退化版と言わざるを得ません。「3DO」版は、実写の豪華キャストによる恩恵もあったのでしょうか。

【LONGEVITY】6
本作は、1本のストーリーしかないのですが、それでもプレイ時間は十数時間ぐらいにはなるでしょう。しかも、何もヒントを見ないでプレイすると、どこまで事件の核心に迫れたかの%は50%を大きく割り込むことでしょう。
あまり面白みがなく、面倒なゲームではあるものの、セカンドプレイを辞さないなら、30時間近くはプレイすることになります。

【OVERALL】6
本作は、原案・監修に西村京太郎が当たるトラベルミステリーアドベンチャーです。プレイヤーは、十津川警部となり、東京~南紀白浜を舞台に繰り広げられる事件を、相棒の亀井刑事や、西本刑事、北条刑事、清水刑事などとともに解決していきます。
これだけの条件がそろえば、かなり引きの強いタイトルになるのですが、グラフィックやシステム、シナリオなど、すべてにおいて、中途半端だったり、あっさりとしており、いささか残念な仕上がりになってしまいました。
西村京太郎のトラベルミステリーのファンなら、980円で買えることを前提に、コレクターズアイテムとして、持っておいてもいいかなといったところです。

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