「TREK TO YOMI」は、「SHADOW WARRIOR」シリーズを生み出したポーランドのFLYING WILD HOGが開発する侍映画風アクションアドベンチャーゲームです。
同社は、2009年にポーランドのワルシャワで創立され、2016年と2018年にはクラクフとジェシュフにも新たにスタジオを開設します。
作品は、2011年にファーストパーソンシューターの「HARD RESET」をPC/Xbox One/PS4でリリース。2013年には同じくファーストパーソンシューターの「SHADOW WARRIOR」を同様にリリース。両作品はシリーズ化されます。
2014年には、横スクロール2Dアクションゲーム「JUJU」をPC/Xbox 360/PS3でリリースしましたが、これまでの作品とは一転してかわいらしいグラフィックが魅力の1本となりました。
そして、2021年、「TREK TO YOMI」の開発をアナウンスメント、2022年5月5日にPC/PS5/Xbox Series X|Sでリリースされます。
物語は、若き侍の大輝が住む町が侵入者によって襲撃されるところから始まります。彼は、死に瀕する師への誓いとして、自分の住む里と愛する人々をあらゆる危険から守ることを決意します。
プレイヤーは大輝となり、侍の伝統的な武器を活用する滑らかな戦いを駆使して凶悪な剣士や超自然的な存在と戦います。
「TREK TO YOMI」の最大の特徴は、4Kゲームの時代にあえて全編白黒のグラフィックで、侍映画のような剣劇アクションが展開されるという点です。
ゲームディレクターのレオナルド・メンチアリがアンリアルエンジンを使って白黒ゲームを模索、FLYING WILD HOGは江戸時代を舞台にしたゲームをDEVOLVER DIGITALに提案、DEVOLVER DIGITALがレオナルド・メンチアリとFLYING WILD DOGを結びつけたことで、「TREK TO YOMI」の制作が決まります。
ゲームは、古典的な侍映画、特に黒澤明監督の映画に強く触発されており、江戸時代を舞台に神道に焦点が当てられています。
それだけでなく、ゲームを歴史的に正確なものにするため、江戸時代を専門とする歴史学者のAki Tabei Matsunagaをプロジェクトに招き入れ、江戸東京博物館の展示物をゲーム内に配置するオブジェクトとして用いています。
ゲームが始まる道場と稽古場をはじめ、家や看板や調度品などを違和感を覚えることなく見入ることができるのも、そうした地道な努力と開発陣の熱意があったからこそです。
ゲーム冒頭で大輝が道場から大きな石段を下って町に繰り出した際に、プレイヤーは江戸の町社会に放り出されることになります。
町の人々は、当然のことながら年齢・性別・職業・地位などが異なるものの、それぞれが下町情緒を伴って明るく楽しく仲良く生き生きとした暮らしています。この町が、いかに平和な町であるかを直感的に知ることができるのです。
そうした町の中を進んでいくと、町の人たち同士の会話を耳にしたり、町人から大輝に投げかけられる言葉を聞いたりすることができるのですが、台詞一つひとつが綿密に調整されているため、なんら違和感を覚えることがありません。
声優も、大輝役に加藤将之、愛子役にブリドカットセーラ恵美、三十郎役に白熊寛嗣、貞為役に後藤ヒロキ、陽炎役に大塚明夫など、インディーゲームとは思えないような豪華声優陣が起用されています。
いずれも、テレビアニメ、劇場用アニメ、OVA、海外ドラマ、映画、テレビゲームなどで数多くの出演があり、こうした声優陣の熱演もゲームを良質なものにする一因になっています。
ゲームオーディオは、EMPERIA SOUND AND MUSIC、コンポーザーのYOKO(葉子)とマシュー・ジョンソンが共同で制作。
EMPERIA SOUND AND MUSICは、「ワンストップ」型の音楽及びサウンド専門のクリエイティブ・サービスです。
彼らの手により、太鼓や三味線といった伝統的な日本の楽器により雅楽が奏でられており、侍映画のような雰囲気を醸し出すのに一役買っています。
ゲームが白黒映像になることにより、4Kゲームのカラフルで美しいゲームを見慣れた我々の目にどう映るのかは気になるところです。
ゲームは、カメラワーク、編集、照明など、あらゆる面でこだわって制作されており、距離だけでなく明度の違いでも平面が分けられており、光と影を適切に表現することも重要視されています。
白、黒、灰色しかない世界で、これらを緻密に計算することで、驚くほどにリアルで美しく、はっと息を呑むようなグラフィックが次から次へと現れることに成功したのです。
本作では、移動シーンは、2.5D空間の中を動く大輝を、固定カメラがとらえたり、追尾カメラが追いかけたり、アップになったり、画面を引いたり、様々な視点で捕らえられます。
これも、映像そのものの美しさを追及するとともに、プレイヤーの注意を画面内の特定の場所に引きつけ、常に見やすい視点になるようにするためです。
こうして視点をゲーム側で自在に操ることにより、プレイヤーの期待や不安をあおったり、次に何をすべきか、どこにいくべきか、といった指針を示すことができています。
もっとも、完全な一本道ではない場合には、右に行くべきか、左に行くべきか、奥に進むべきか、手前に進むべきか、悩むシーンが多々ありました。
また、完全な一本道であっても、実は奥に進めるのではないかとか、左右に道があるのではないかとか、考える場面も多々あり、重箱の隅つつきをしたものでした。
実際のところ、それを行ったことで収集物や「増加」の取りこぼしをなくせたというのもあります。これらが画面内で光るのはいいのですが、画面外へのにおわせもほしかったところです。
戦闘シーンは、完全に2Dになるため、プレイを続けていくと、ここで戦闘かと読み取れるようになります。
戦闘中にプレイヤーの視界を遮るような障害物を出さないようにしたそうですが、手前の木が邪魔になることが何度かあり、それが理由でダメージを受けたことも複数回あります。
また、戦闘シーンの背景の壮大さを描くことに力を入れすぎたり、地面の仕掛けを強調したかったあまり、画面が引きすぎてプレイヤーが見づらく、操作しづらいという戦闘も何度かありました。
グラフィックや時代考証が魅力的なゲームとは言え、戦闘の繰り返しで進んでいくゲームだけに、このあたりの配慮はほしかったところです。
戦闘で言えば、タイミング、体力調整、敵に応じた対処方法が3本柱になります。本作はいわゆる”死にゲー”であり、これらを体感しながら学んでいくことになります。
私は、実績を解除したいこともあり、高難易度に挑戦したい人向けの「浪人」(難易度: 高)でゲームを終始したのですが、それはもう死にまくり、「戦闘で500回死ぬ」とか「戦闘で1000回死ぬ」とかいう実績があれば簡単に解除できたほどです。
「浪人」でゲームをクリア後、もう少し実績を解除したいため、物語を楽しみたい人向けの「歌舞伎」(難易度: 低)でゲームを再開したのですが、敵によってはごり押しでも倒せてしまうため、難易度の違いを実感することができました。
難易度についてふれておくと、私のように「浪人」でゲームをクリアした人の割合はわずかに0.59%(1000人に6人)であり、大半の人が「歌舞伎」か「武士道」(難易度: 中)でクリアしていると思われます。
もっとも、これは正しい選択であり、本作が雰囲気を楽しむゲームであるということを考慮すれば、まさに死ぬような思いをして「浪人」でクリアする必要はないと思います。
また、本作は祠でセーブするシステムなのですが、祠の配置があまり適切とは言えないように感じました。
「浪人」でプレイしていると、戦闘また戦闘と戦闘が続くところが何ヵ所かあり、途中で祠を用意しておいてくれと願ったものです。このあたりは、プレイヤーに対する配慮がほしかったところです。
それに関連して言うと、祠は1回使うと閉じて使えなくなってしまうのですが、果たしてその必要があったかどうかは疑問に思います。
「バイオハザード」はタイプライターのインクリボンの所持数によってセーブ回数が制限されるようになっていましたが、考えようによってはこれよりも厳しいとも言えます。
「浪人」でプレイ中、「歌舞伎」なら祠は閉まらないのかなと思っていたら、「歌舞伎」でも祠が閉まるという事実に唖然としました。
難易度を設けるなら、祠の使用回数も難易度に応じて緩和するようにすべきだったではないでしょうか。
さらに、本作ではメインとなる武器は刀1種類しかありません。潔いと言ってしまえばそれまでなのですが、メインとなる武器も何種類かは用意して選べるようにしてほしかったところです。
飛び道具も、棒手裏剣、矢、大筒と増えていきますが、いずれも所持数が限られるため、使いどころが制限されたり、逆に効率良く使えなかったりしました。
これらも、現実問題としてもそれほど邪魔にはならないのだから、制限数を撤廃してほしかったところです。そうすれば、戦い方にも個性が出せたはずです。
戦い方の幅という点では、本作では戦闘は2Dに強くこだわっていましたが、戦闘も2.5Dあるいは3Dでも良かったと思います。
時代劇では、敵に周囲を囲まれるというシーンは往々にして目にしますし、いっそのことステルス戦闘も可能ならより広がりがあったことでしょう。
こうして、グラフィックや時代考証、キャスティング、サウンド、戦闘などに関してあれこれと述べてきましたが、我々日本人をもうならせる素晴らしい侍映画のような剣劇アクションゲームがポーランドから生み出されたのは間違いありません。
「ARAGAMI」にせよ、「TREK TO YOMI」にせよ、海外のインディースタジオが江戸時代の侍や忍者に興味を持ち、それをゲームの題材にし、素晴らしいゲームを作り上げてしまうのですから頭が下がる思いです。
「ARAGAMI」が時を重ねてシリーズ化されたように、「TREK TO YOMI」も次回作に期待せざるを得ません。
「TREK TO YOMI」では、「黄泉への旅路」という邦題の通り、ゲームの半分は黄泉を旅する物語でしたが、これだけのグラフィックと時代考証とスタッフがあるなら、江戸文化に注力したゲームも期待したいものです。
それが、江戸を舞台にした完全3Dのセミオープンワールドで、町人や城下町文化を感じられるものであったり、捕物帳であったりしても楽しいかもしれません。そうすれば、雰囲気ゲームからより深く進化したゲームへとなることでしょう。
【ウォークスルーインデックス】
#1(第一章: 幼き日々の終わり1(三十郎先生を探す、正門へ向かう))
#2(第一章: 幼き日々の終わり2(襲撃を退ける、村のはずれを探す))
#3(第二章: 嵐の後1(仲間を探す、上川村へ向かう))
#4(第二章: 嵐の後2(森光たちを助ける、村人を助ける))
#5(第三章: 塵と灰1(愛子を探す、仲間を助ける1))
#6(第三章: 塵と灰2(仲間を助ける2))
#7(第四章: 儚い運命1(愛子を追う、答えを探し求める1))
#8(第四章: 儚い運命2(答えを探し求める2))
#9(第四章: 儚い運命3(答えを探し求める3))
#10(第五章: あの世の旅人1(先へと進む1))
#11(第五章: あの世の旅人2(先へと進む2))
#12(第五章: あの世の旅人3(先へと進む3))
#13(第五章: あの世の旅人4(先へと進む4))
#14(第六章: 途の終わりか1(黄泉の国で生き延びる))
#15(第六章: 途の終わりか2(黄泉の国から脱出する1))
#16(第六章: 途の終わりか3(黄泉の国から脱出する2))
#17(第六章: 途の終わりか4(黄泉の国から脱出する3))
#18(第六章: 途の終わりか5(黄泉の国から脱出する4))
#19(第七章: 侍は二度死ぬ1(陽炎に立ち向かう1))
#20(第七章: 侍は二度死ぬ2(陽炎に立ち向かう2))
「TREK TO YOMI」、最高難易度「剣聖」は高難易度「浪人」より易しい!?
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